むかし おとこ有けり
ならの京は離れ この京は人の家まださだまらざりける時に
西の京に女ありけり その女 世人にはまされりけり
その人 かたちよりは心なんまさりたりける
ひとりのみもあらざりけらし
それをかのまめ男 うち物語らひて 帰り来て いかゞ思ひけん
時は三月のついたち 雨そをふるに遣りける
起きもせず寝もせで夜をあかしては春の物とてながめ暮らしつ
むかし おとこありけり
懸想じける女のもとに ひじきもといふ物をやるとて
思ひあらば葎の宿に寝もしなんひじきものには袖をしつゝも
二条の后のまだ帝にも仕うまつりたまはで
たゞ人にておはしましける時のこと也