和歌と俳句

伊勢物語

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十九段

 昔 おとこ 宮仕へしける女の方に  御達なりける人をあひ知りたりける ほどもなくかれにけり  同じところなれば 女の目には見ゆる物から  おとこにはある物かとも思たらず 女 

  天雲のよそにも人のなりゆくかさすがに目には見ゆる物から 

とよめりければ おとこ 返し 

  天雲のよそにのみして経ることはわがゐる山の風はやみ也 

とよめりけるは 又おとこある人となんいひける

二十段

 むかし おとこ 大和にある女を見て よばひてあひにけり  さて ほど経て 宮仕へする人なりければ 帰りくる道に  三月ばかりに かえでのもみぢのいとおもしろきを折りて  女のもとに道よりいひやる 

  君がためたおれる枝は春ながらかくこそ秋のもみぢしにけれ 

とてやりたりければ 返事は京に来着きてなん持てきたりける 

  いつの間にうつろふ色のつきぬらん君が里には春なかるらし