むかし おとこ いとうるはしき友ありけり
片時さらずあひ思ひけるを 人の国へ行きけるを
いとあはれと思ひて 別れにけり 月日経てをこせたる文に
あさましく対面せで 月日の経にけること 忘れやし給にむんと いたく思ひわびてなむ侍る
世中の人の心は 目かるれば忘れぬべき物にこそあめれ
とていへりければ よみてやる
目かるとも思ほえなくに忘らるゝ時しなければ面影にたつ
むかし おとこ ねんごろにいかでと思ふ女ありけり
されど このおとこをあだなりと聞きて つれなさのみまさりつゝいへる
大幣の引く手あまたになりぬれば思へどえこそ頼まざりけれ
返し おとこ
大幣と名にこそたてれ流てもつゐに寄る瀬はありといふ物を