TopNovel>嘘つきSeptember・7




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 ……よいしょっと。
 あ〜、すっきりした。もう、一時はどうなっちゃうかと思ったわ。何だか、変だなと思ってはいたのよね。だって、この部屋に来るたびにぼんやりしたり記憶が飛んだり、不可解な現象ばかりが起こっていたんだもの。お香の効果だけじゃないよ、きっと。あの大音響の音楽にだって、怪しげな仕掛けがあったんじゃないかな?
 元通りに起き上がってスカートについた埃をはたいていたら、いつの間にか足下に長い影が伸びている。それがひたひたとものすごい勢いで近づいてきたかと思ったら、おもむろに腕を掴まれた。
「―― 莉子」
 うわっ、すごい怖そうな顔してるっ! そんなに凄まなくたっていいじゃないっ、あのね、あたしは一応被害者なんだよ? そりゃ、未遂に終わって大事には至らなかったけど……それでも結構きわどくて、とにかく大変だったんだから。
「何よ?」
 こういうときに可愛くうなだれることの出来ないのが、あたしの性分。だから必死ににらみ返すんだけど、今回は相手が悪すぎる。
「お前の馬鹿さ加減にはほとほと愛想が尽きた、何度も同じことを繰り返せば少しは賢くなっても良さそうなものを」
 あー、そう来たか。まあ、突っ込みどころはそこだって分かってたわよ。悪かったわね、頭悪くて。そんなの今更言われなくたって分かってるって。
「分かってたもん、こうなるって。分かってて、やったんだもん」
 すごい強がってるな、あたし。ついさっきまでの緊張の極みがぷっつり切れて、あとに残ったのはとてつもなく大きな恐怖だけなんだけど。そう言うのも素直に表に出せないでいる。
「何?」
 大王の太い眉がぴくっと動く。あたしは自分を奮い立たせるために、おなかにぐっと力を入れた。
「ダンス部のこと、楓先輩と大王が少し前からいろいろ調べてるの知ってた。あたしには話してくれなかったけど、ふたりでこそこそしてれば、だいたいの察しはつくんだよ。でも、もうちょっとのところで逃げられてばっかみたいじゃない。だから、今回コースケ先輩があたしに近づいてきたときに思ったの『こんなチャンス、逃す手はない』って。どう、あたし上手くやったでしょう?」
 ふ〜んだ、人のこと見くびらないで欲しいわよ。あたしだって、伊達に危ない橋を渡り続けているわけじゃないんだからね。そりゃ、ヤバいことが向こうから近づいてくる傾向にあるのは認めるよ? でもだったら、それから逃げてばっかじゃなくて逆に利用してやれって思ったのよね。
「全ては計算尽くの行動だった、と言うのか」
 ふふ、少しは驚いてくれたのかな? あたしの腕を掴む大王の手が少しだけ震える。
 そーだよ、ついでに大王の巡回ルートとスケジュールだって、でたらめに教えたし。それにしても、あんなに素直に信用してくれるなんて思わなかった。こんな時間に内側に暗幕を張り巡らせた場所があったら怪しすぎるもんね。でも気づいてくれて良かったわ、声が出なかったのは想定外だったから。
  それに時間だってぴったりだったでしょう、あたしいいセンスしてるよ。さすがに楓さまがセットでついてくるとは意外だったけど。これもふたりの騎士(ナイト)に護られているみたいでちょっと嬉しいかな?
「あたしだって、たまには役に立つでしょ?」
 やだな、「にっこり」が通じない相手って嫌い。大王は特上スマイルを完全に無視して、くるりときびすを返す。
「帰るぞ」
 乱暴に振りほどく手。何よ、自分から掴んでおいて、どういうこと? そのまんま、すたすた歩き出すんだ、壊した窓とか扉とか片付けなくていいのかな。
「帰るって、どこに?」
 あ〜、いつの間にかあたしの鞄を持ってるし! 荷物を人質に取るってひどすぎない? それって、性格悪すぎだよ。
「指導室に決まってるだろう、お前が怠けてばかりいるから仕事が山のように溜まってるぞ」

 ……とか何とか、言ったくせに。
「仕事なんて、全然ないじゃないの! この嘘つきっ、よくも騙したわね!」
 まあ、ここまで言うことはなかったかなとも思うのね、一応助けてもらったんだし。でもでも、今回はあたしだって頑張ったのにそれに対する言葉は何かないわけ? 「偉いぞ」とか「良くやったな」とか……そういうの、そもそも化け物に期待しちゃ駄目かなあ。
「ぎゃんぎゃんとわめき散らすな。耳障りだ、頭痛がする」
 その上、超不機嫌なんだもの。真っ黒なオーラが辺り一面に漂っていて、近づくのも躊躇われるくらいよ。それなのに、しっかりあたしの鞄をキープなんだもんな。これじゃあ、帰るに帰れないじゃない。定期だってお財布だって取り上げられてたら、電車にもバスにも乗れないもの。
 そして、しばらくは沈黙。
 大王はあたしに背中を向けたまま、窓の外を見てる。何よ、会話も成立しない状況なら、さっさと解放しなさいって言うのよね。本当、訳が分からないわ、この化け物って。
「―― 分かっていてやったと言ったな?」
 もういい加減、そこにある調律もしてないピアノでもデタラメに弾いてやろうかなとか思ってた。それくらい手持ち無沙汰だったの。そしたら、ようやく大王が重すぎる口を開く。
「そうよ、悪い?」
 そんなに怒らなくたっていいじゃない、結果オーライだったんだしさ。あたしがあまりに上手く立ち回ったから、面白くないのかしら? 性格がひん曲がってるわ、コイツ。
「敵を欺くにはまず味方から、って言うじゃない。確かに黙ってたのは悪かったと思うよ、でもその方が良かったでしょう? コースケ先輩だって、完全に騙されてくれたし」
 もうちょっと、言い訳を続けようかと思ってたのね。でも途中で大王に遮られる。
「その名前を二度と口にするな」
 そこでようやくこっちを振り向いた訳だけど、何しろ逆光でその表情がよく分からない。そうしているうちに、どんどん近づいて来るんだもの。ぎょっとして後ずさりしようとしたときにはもう目の前まで迫っていた。
「なっ、何……」
 ただですら、見上げちゃうくらいの長身なのよ。しかも武道の達人と来てるんだから、肩幅とかがっちりしてて。全身黒ずくめに視界を遮られて真っ暗。わたわたしていたら、両側からぬーっと腕が伸びてきた。
「あんな男の名を聞くだけで虫唾が走る。全くあまり気を揉ませるんじゃない、本気で舞い上がっているのかと思っていたぞ」
 息も出来ないくらい、ぎゅーっと抱きしめられる。身長差がありすぎだから、心持ち身体が浮き上がった感じになった。学ランの金ボタンが額に当たって痛い。
「そ、そんなはずないでしょっ! あのね、あたしにだって好みというものがあるんだから。あんなチャラチャラと軽いのは絶対に嫌、頼まれたってお断りよ」
 とか言いつつ、だったら今のこの状況はどうなのよ、と思わないでもない。不可抗力とはいえ、どこから見ても普通じゃない男にくっついてるのって……やっぱ変だよね?
「そうか」
 短い答え、そして身体がふわっと浮き上がる。そのまま肩に担がれて……。
「俺を騙そうなんて、見上げた根性だな。まだまだしつけが足りないようだ、しっかり仕置きをしなくては」
 え? ……ちょっと待って、どうしてそういう結論になるのっ!?
「あっ、あのっ……あたし、これから体育館までステージ練習を見に行かなくちゃならなくて! だからその、こんなことしてる場合じゃないから……!」
 とりあえず、ばたばたと抵抗してみた。だって、今度はちゃんと手足が動くし。それなのに、さっさと半脱ぎ状態になってる大王はピアノの陰まで移動すると、いとも簡単にあたしの身体をソファーに沈めてしまう。そして、あっという間にスカートの中に手を突っ込んで、パンツを指に引っかけるの。
「だいぶ濡れてるぞ。何だかんだいいつつ、あんな場面でしっかり欲情してたな?」
 うわ〜っ、いきなり身体検査ですか? そんなのって、ずるすぎだよっ! っていうか、思いっきり反則!
「ちっ、違うっ! 絶対に、そんなじゃないから……っ!」
 毎回、不思議に思うんだけど。どうしてこの部屋って、あたしがいくら大声で騒いでも大丈夫なの? 外に音が漏れているとか、そういうことないのかな。だって、狭くはあるけど普通な作りの教室なんだよ?
 それとも、……まさかまさかとは思うけど。たった今、あたしに襲いかかってる化け物が人間業じゃない特殊能力で結界でも張っているのかしら……!?
「やっ、やあっ……! いきなりそんなところ、触らないでぇっ……」
 こういうのって、順番とか関係ないの? いきなり下からですかっ、聞いてないよ。スカートを捲り上げて足を左右に大きく広げられたら、触診開始。湿っぽい指先が感じやすい場所を次々に探っていく。生暖かい息も吹きかけられるから、そのたびにぞくぞくってしちゃう。
「何言ってるんだ、こっちは今か今かとよだれを垂らして待っているぞ。ほぉら、あっという間に二本も飲み込みやがって、それでもまだ足りないと言っている」
 そんなの嘘だよ〜、大王の勝手な想像でしょう。中を探りながらすぶすぶっと埋め込まれたら、もう大変。腰がひとりでに跳ね上がっちゃう。でもっ、違うから! 別に悦んでるとか、絶対違うから!
「……んはっ……、ああん……っ!」
 何、色気出しているのよ、あたし。こんな無理矢理なやり方に感じてるんじゃないのっ! なのに、……なのに、もっと滅茶苦茶にして欲しいって思うのはどうして? やだぁ、もう。自分でも訳が分からなくなってる。
「分かったか、これに懲りたら少しは大人しくしていろ。二度と俺や楓を出し抜こうなんて、ふざけた真似をするんじゃないぞ」
 そう言いながら、なおも中をかき混ぜていく。もう一方の手は今度は上に這い上がってきて、ブラウスの上からブラごと胸を鷲づかみにした。そしたらもう、感じやすいてっぺんはびんびんに堅くなっちゃって大変。薄いパットを持ち上げて、元気に自己アピールを始めている。
「そ、そんなことっ……い、言ったって……!」
 ぷちぷちぷちっと途中まで外されたボタン、それからホックも外さずに強引にブラが押し上げられる。そんな風にされたら、いろんなところがこすれて大変なことになっちゃう。感じすぎて、頭の中がぱんぱんになりそう。
「だ、だって、……あたし、嫌だったんだもの。そりゃ、分かってたけどっ。大王や楓さまがあたしのこと心配してくれるって、二度と危険な目に遭わないようにっていっつも気にしてくれてるって。でも、そういうのって、……仲間はずれになってるみたいですごく悲しかったから」
 何だろう、急に涙が溢れて来ちゃった。大王も驚いたみたい、好き放題あたしを触りまくっていた両手が動きを止める。
「……莉子?」
 そんな目で覗き込まないでよ、吸い込まれちゃいそうだわ。かき上げてもかき上げてもばらばらと落ちる髪があたしの身体をくすぐったくさすっていく。
「あたし、こんなじゃまだまだで、ちょっぴりかも知れないけど……それでも、大王たちの役に立ちたかったんだ」
 こんな奴らとは、永遠に縁を切りたいと願っていたはずなのにね。いつの間にか隠密の一味に加わっているような、妙な気分になり始めていた。でもあたしって、頭が切れる訳じゃないし、これといって特技もない。だから、ここは捨て身の行動に出るしかないかなって思ったの。
「そうか」
 そのとき。一瞬だけど、思い違いかも知れないけど、大王がすごく優しく微笑んだ気がした。
「じゃあ、莉子が一番欲しいものをたっぷりやらないとな。いいか、腰が立たないくらいにしてやるぞ」
 いや、そこまでは必要ありませんから。……って、もう取り出してるし!
「さあ、こっちもお待ちかねだ。お前の中で存分に暴れ回りたいと言っているぞ、覚悟はいいか?」
 いいえ、良くありませんっ! というか、遠慮していいですか? だって、今日の大王の、すごそうなんだもの。いつもよりももっと大きい気がするの、気のせいかな。ううん、絶対にそう、それにすごく堅そうに見えるし……。お決まりの「アレ」をポケットから取り出すと、念入りにカバーリングしてる。そして腰をふわっと持ち上げられて―― 。
「ひっ、……ひゃあん……っ……!」
 怖いよう、だって存在感がありまくりなんだものっ。そんなものがあたしの中を出たり入ったり、たくさんたくさんかき混ぜてとんでもないことになってる。どんどん溢れてくるものがおしりの下の方にまで広がって、ぬるぬる。だけど、大王はそんなこと全然お構いなしみたい。あたしがへんてこな声を上げるたびに、更に動きを早く複雑にする。
「だっ、……大王……っ!」
 もうどうしようもなくて、仕方ないから大王の首に腕を回してしがみついた。そしたら今度は胸に吸い付かれて、そっちの方で大変なことになる。上から下から、別々におそってくる刺激に心がどこかに飛んでいきそう。この部屋には怪しげな香りとか音楽とかそう言うのはないはずなのに、たったひとりの存在があたしをどこまでも狂わせようとする。
「……やっ、やぁんっ、もうっ、もう……だめぇ……!」
 頭の中がばちばちって、一度に全てショートする。これがたぶん、いわゆる「イク」ってことなんだな。最初は何事かと思ったけど、何度か達するうちにそうなのかもって思い当たった。次の瞬間には身体の力が全部抜けて、そこで終わりになる。そう思っていたのに、あれよあれよという間にくるんと身体がひっくり返された。
「……え?」
 今度は、いわゆる四つんばいの姿勢。突き刺さったままの大王のそれは、まだがっちがちに堅いまんまだった。もしかして、それって……。
「悪いな、今日はまだまだ終わりにならなそうだ。俺が満足するまで付き合ってもらおう」
 えええ〜っ!? ちょっと、それはないでしょうっ! 嘘、嘘、あり得ないから!!
「……んぎゃああああっ、やめてっ、助けて……っ!」
 向きが変わっただけなのに、どうしてこんなに違っているの。今までより深く激しく入り込んでくるみたいで、一度行き着いたはずの内側があっという間に新しい刺激に夢中になる。こうなると、もう拷問に近いよ。何なのっ、これ。
「そんなに悦ぶんじゃない、全くしょうもない奴だな」
 ち〜が〜う〜っ! その言葉っ、まるっとそのまんま大王にお返しするから! そう言い返したいのに、あたしの口から出てくるのは言葉にはほど遠い叫び声のみ。
 
 結局、その日は文化祭実行委員長代理としての仕事は全く手につかなかった。
 もともといてもいなくてもあまり変わらない助っ人だったんだからいいんだけど。底なしの性欲に取り憑かれた魔物の相手をするよりはずっと楽だったと思うんだけどな。何なの、あれ。思い切り変態だよ。

 

もうちょっと、つづく♪ (091005)

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