出会いは、本当にいい加減。
その日は合コンの頭数を合わせるために、友達に呼ばれた。男が全額持ってくれるというところからして、下心が見え見えのセッティングだったと思う。会場に指定されたイタメシ店の小部屋には、目をギラギラさせた男たちが待ちかまえていた。
それを見て、入り口で早くも帰りたくなった。だけどまあ、せっかく料理も出るんだ、帰るのは食べてからでもいいだろう。そう思って座った隣りに勝巳がいたという訳。
簡単な自己紹介と乾杯を終えると、勝巳は目にも止まらない早業で割り箸を手にして、目の前の大皿から料理を次々と自分の小皿によそった。そして瞬く間にそれらを平らげていく。あっという間に三皿は片付けたのではないだろうか。その間、私はお箸を手に呆然。言葉も出ないまま、がっついている横顔を見つめていた。
「はあああ〜」
そこまで来て、彼はようやくビールに手を伸ばす。それを一気飲みしたあとに、空いた大皿を重ねて片づけると、少し離れたところにある別の皿を左右から自分の方へと引っ張っている。
――これは、さすがにちょっとひどすぎない?
そうは思ったものの、よくよく見ればあとの参加者はおしゃべりに夢中で食事には目もくれない感じ。男たちは女の子に取り入ろうと必死だ。男女の数は揃えてある。そしてみんな上手くペアにまとまりつつあるみたい。……と言うことは。
そのとき、私は改めて隣りを見た。すでに六枚目の大皿が彼の手で空になりつつある。
時計を見たら乾杯からまだ十分しか経ってないのに、どうしちゃったのと思うくらいの凄いスピード。私はちまちまとシーザーサラダなどをつつきながら、しばらくどうしようかと考えていた。いいんだけど、このまま放っておいても。……でも誰ともひとことも話さないうちにお開きっていうのもちょっと寂しいかな。
「お飲みになります?」
いろいろ考えた末。
ちょっと離れたところにあるビールの瓶を取ると、思い切って話しかけてみた。
「……は?」
私の声に顔を上げた勝巳は、初めてこちらの存在に気付いたみたい、目をぱちくりさせて私を見る。それから、ふっと顔中で笑った。
「はいっ、頂きます!」
勝巳は大学の映研にいて、年中自主制作の映画を制作するのに明け暮れていた。もちろんそんなことがお金にはなるわけないし、むしろ出ていく一方。だからギリギリまでバイトを入れて、生活費を切りつめて頑張っていた。その日も晩ご飯をご馳走してくれるという友達の言葉に喜んでついてきたんだと言う。
そこまで聞いて、自分たちがその気もないのに連れてこられた似たもの同士だということに気づいた。その後は映画の話などをお互いにしながら、一向に皆が手を付けないお皿を順に片づけていく。
その日はそのままお開きになり、彼ともそれきりになるはずだった。
それが。
一人暮らしのマンションに戻って、ふと気付く。――携帯がない、いったいどこでなくしたんだろう?
とりあえず、家の電話から自分の携帯にかけてみた。そして、電話口に出たのが勝巳。テーブルの上に置いてあったのを間違えてバッグにしまってしまったのだと言う。偶然機種も色も同じでそれが原因だった。とりあえず電源をオフにしてもらい、次の日に受け取りに行くことにする。
彼が講義を終えて、バイトに出るまでの移動時間。ひとことふたことかわしただけで、あっさりしたものだった。
これにはちょっとがっかり。別にいいんだけど、こういうときってお詫びに食事でもとか考えない?
時間がないと言い残し地下鉄の入り口に消えていった背中を、すごく恨めしい気分で眺めてた。そして、一息吐いてから携帯を改める。
そう。
アドレス帳に、彼のナンバーがちゃっかりと登録されていた。
「――その携帯を勝巳のバッグに入れたのが、私なの」
一杯目のお茶を飲み干して、お代わりを要求した天使は面倒くさそうに言った。
「合コンって言うから、脈のありそうな会かと潜り込んでターゲットを探していたのよ。あのとき、ピンときたのよね、このふたりなら絶対上手くいくって。……まあ勝巳がナンバーを打ち込んだときは凄いなあと感動したけど。とにかく、すべては私のお陰なんだから!」
少女はカップを受け取りながら、自慢げに笑った。
「でも、その割りにはなかなか進展しなかった気がするけど」
私は自分のカップにも二杯目のお茶を注ぐと、唇を尖らせた。それを見て、少女がくすくすと笑う。
「そうね、それも楽しかったわ。ちょうどいい、暇つぶしってことで」
つづく (110523)
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