古事記のものがたり
第二話 よいしょ・こらしょ
ふることに伝う。


あめのみなかぬし(天之御中主)、たかみむすひ(高皇産巣   日)、かむみむすひ(神皇産巣日)、の三柱の神々『造化三神』  たちによって、宇宙は始まりましたが、油のようにどろどろとしてまだしっかりと固まっておりません。

まるで水の上に浮いた脂のような状態に見えます。海月のようにゆらゆらと漂っているようにも思われます。そんな泥沼のような中から、美しい若芽が萌えるようにしてお生まれになった神様がおられます。

うましあしかびひこぢ(宇摩志阿斯訶備比古遅)の神と申しまして、すべての命の素となる神様でございます。

つぎに、あめのとこたち(天之常立)の神がお生まれになられ、

「よいしょ」

と担ぐように、はるか高くまで天を押し広げ支え挙げました。この二柱の神様たちもやはり姿は見えません。

あめのみなかぬし(天之御中主)、たかみむすひ(高皇産巣   日)、かむみむすひ(神皇産巣日)、うましあしかびひこぢ(宇摩 志阿斯訶備比古遅)、あめのとこたち(天之常立)、

ここまでの五柱の神様たちは『別天つ神』という特別な神々で、男でもなく女でもない独り神です。

大宇宙は、今でもこの目に見えない神様たちによって支配統一されているのです。見えるものよりも、見えないものがこの世界を動かしているのでございます。

つぎに、くにとこたち(国之常立)の神がお生まれになり、地が永遠に揺らがないように、

「こらしょ」

とどっしり座り込み、大地を守りました。

こうして豊かな天と強固な大地が完成し、はてしのない広々とした宇宙空間ができあがったのです。

つぎに、とよくもの(豊雲野)神がお生まれになり、真っ白なふわふわしたいくつもの星雲に姿を変えました。この二柱の神様たちもやはり独り神で性別はなく、姿は見えないのでした。

ここにおいて大宇宙はようやく姿、形を整え始めました。そしてこのあとからは神様にも性別ができ、男と女の神様が次々と生まれてきました。

まず、ういぢに(宇比地邇)、妻のすいちに(須比智邇)のご夫婦が現れて、泥や砂をお産みになりました。その泥や砂を丸めて宇宙に漂っている星雲に投げ、星々の種を造りました。

つぎに、つのぐひ(角杙)、妻のいくぐひ(活杙)のご夫婦が現れて、その泥や砂が他の星雲に飛び出さないように杙を産んで柵を造っ ていきました。

つぎに、おほとのぢ(意富斗野地)、妻のおほとのべ(大斗乃弁)のご夫婦が現れて、星雲と星雲の境界を管理するために、門や戸を産んで出入り口を守られました。

つぎに、おもだる(於母陀流)、妻のあやかしこね(阿夜訶古 泥)のご夫婦が現れて、あらゆるものの陰陽(男根と女陰)をつかさどり、生産と豊饒の管理をしました。

そしていよいよつぎに登場するのが、日本人のご先祖となられ る、いざなぎ(伊耶那岐)、いざなみ(伊耶那美)のご夫婦の神様なのです。

なんだか神様の名前が多くてややこしいことですが、国之常立の神から伊耶那美の神までは『神世七代』と言って『高天原』の誕生にとても重要なお役目を果たされた十七柱の神々でございます。

ひと息で話しましたが、ここまでは百五十億年という気の遠くなるような長い長い年月が流れて、ようやくたどりついたお話です。

そうそう、神様を数えるのは、にん(人)ではなくて、一柱(ひとはしら)二柱(ふたはしら)と言って数えます。なにか変ですが昔からこのように言っているのでございます。

では、いよいよ次から、日本の国生みがはじまりますが、そのお話はまたこの次に。
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