古事記のものがたり 第八話 暴れ者のスサノオ |
ふることに伝う。 天照大御神は、すべてのものに伸びる力と喜びの光りを平等に ふりそそぎ、月読は、満ち欠けしながら静けさとやすらぎを与えておりました。こんな風にして、二人は、いざなぎから与えられた国をしっかりと治めていました。 ところが須佐之男だけはなにが不満なのか、ただ泣きわめいているばかりでございます。ひげが胸元に届くほどに年月が過ぎ去っても、まったく変わらないご様子です。 須佐之男は、豊かに満ちあふれていた、川、海、森の水分を自分の体に吸い上げて、涙として流し続けています。あまりに泣き続けるものですから、川海、山は枯れてしまい、からからと荒れた国になってしまいました。 そのために『もののけ』が、蠅がむらがるように押し寄せ、不気味な音をたてて騒ぎはじめたのです。疫病がはやり、わざわいも数知れず起こるようになってまいりました。 困ったいざなぎは、須佐之男のところにやって来ると、息子の顔をのぞきこみました。 「お前はどうして国を治めずに、いつまでも泣きわめいているのか?」 すると須佐之男はよけい大声で泣き、ひっくり返って手足をばたばたさせて、 「俺はこんなところはいやなんだ! 母の住んでいる根の国に行きたいよー」 とますますだだをこねだしました。いざなぎは、こんな息子の様子を見てあきれてしまい、 「そんな弱虫はこの中つ国に住んではならない! どこかへ行ってしまえ!」 と顔を真っ赤にして怒り、須佐之男を果ての果てまで追っぱらってしまわれたのです。 我が子を追放したいざなぎは、たいへん気落ちされ、しばらくののち、淡海の多賀に隠居されました。その場所は、近江の国(滋賀県)の多賀大社とも淡路島の多賀にあるいざなぎ神社ともいわれております。 さて、父にしかられて追放された須佐之男は、根の国に行く前に「姉の天照大御神にお別れのあいさつをしてこよう」とお考えになり、高天原へと昇っていきました。 その勢いは大変なものでしたから、須佐之男が高天原に近づくにつれて、山、森、河はどよめき、大地はゆさゆさと激しく揺れ動きました。 天照大御神はこの大音響に驚き「須佐之男がやって来るのはきっとわたしの国を奪おうとしているのだ」と思いました。それですぐに戦の支度を始められたのでございます。 まず長い髪を解かれまして、男がする角髪に巻き、その左右の角髪にも、髪飾りにも、左右の手にも、たくさんの美しい勾玉がついたみすまるの珠を巻いたのです。 背中には、千本の矢が入る筒を、わき腹には五百本の矢が入る筒をつけられました。さらに左手首には、弓を射ると弦の反動を受けて、敵を威圧するような高い音のでる道具をつけました。 このように男の戦の格好をし、威風堂々として地面を踏み込む と、土煙が淡雪のように舞いあがりました。そして威勢よく弓を振り上げ、 「うおぉー」 と男のような雄叫びをあげ、須佐之男の来るのを待ち受けたのです。 そんなこととは知らずに須佐之男は、のんきな顔で高天原にやって来たのでございます。 天照大御神は弟の姿を見つけるやいなや、 「どういうわけで昇って来られたか!」 と大声を発しました。さて、いったいどうなるのでしょうか。このお話はまたこの次 に。 |
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