三條右大臣定方
名にしおはば相坂山のさねかづら人に知られて来るよしもがな
在原元方
恋ひしとは更にもいはじ下紐の解けむを人はそれとしらなむ
返し よみ人しらず
下紐のしるしとするも解けなくに語るがごとはあらずもあるかな
よみ人しらず
うつつにもはかなき事のわびしきはねなくに夢と思ふなりけり
貫之
手向けせぬ別れする身のわびしきは人目を旅と思ふなりけり
よみ人しらず
宿かへてまつにも見えずなりぬればつらき所のおほくもあるかな
よみ人しらず
思はむと頼めし人は変はらじを訪はれぬ我やあらぬなるらむ
中務
いたづらにたびたび死ぬといふめれば逢ふには何をかへむとすらむ
返し 源信明
死ぬ死ぬときくきくだにも逢ひみねば命をいつの世にか残さむ
本院侍従
ゑにかける鳥とも人を見てしかな同じ所をつねにとふべく
平定文
昔せしわがかね事の悲しきはいかに契りしなごりなるらむ
返し よみ人しらず
うつつにて誰契りけむ定なき夢路に迷ふ我はわれかは
清原諸実
くれはとりあやに恋しく有りしかばふたむら山も越えずなりにき
返し よみ人しらず
唐衣たつを惜しみし心こそふたむら山の関となりけめ
きよなりが女
夢かとも思ふべけれど覚束な寝ぬに見しかば分きぞかねつる
よみ人しらず
空しらぬ雨にも濡るるわが身かな三笠の山をよそにききつつ
よみ人しらず
もろともにをるともなしに打ちとけて見えにけるかな朝顔の花
よみ人しらず
ももしきは小野のえくたす山なれや入りにし人の訪れもせぬ
伊尹朝臣
鈴鹿山いせをのあまのすて衣しほなれたりと人やみるらむ
貫之
いかで我人にもとはむ暁のあかぬ別れや何に似たりと