よみ人しらず
旅寝して妻こひすらし郭公神なび山にさよふけてなく
よみ人しらず
夏の夜にこひしき人のかをとめは花橘ぞしるべなりける
伊勢
郭公はつかなるねをききそめてあらぬもそれとおぼめかれつつ
よみ人しらず
五月雨のつづける年のながめには物思ひあへる我ぞわびしき
郭公ひとこゑにあくる夏の夜の暁かたやあふこなるらむ
うちはへてねをなきくらす空蝉のむなしきこひも我はするかな
常もなき夏の草葉におくつゆを命とたのむ蝉のはかなさ
やへむぐらしげき宿には夏虫の声より外に問ふ人もなし
空蝉のこゑきくからに物ぞ思ふ我も空しき世にしすまへば
藤原師尹朝臣
如何せむをぐらの山の郭公おぼつかなしとねをのみぞなく
よみ人しらず
郭公暁かたのひとこゑはうき世の中をすぐすなりけり
人知れずわがしめし野のとこなつは花さきぬべき時ぞきにける
わか宿の垣根に植ゑしなでしこは花にさかなんよぞへつつ見む
常夏の花をだに見ばことなしにすぐす月日もみじかかりなん
常夏に思ひそめては人しれぬ心の程は色に見えなん
色といへばこきもうすきもたのまれずやまとなでしこ散るよなしやは
太政大臣忠平
なでしこはいづれともなくにほへども遅れて咲くはあはれなりけり
よみ人しらず
なでしこの花ちりかたになりにけりわがまつ秋ぞ近くなるらし
宵ながら昼にもあらなん夏なれば待ちくらすまの程なかるべく
夏の夜の月は程なく明けぬればあしたのまをぞかこちよせつる