文屋やすひで
草ふかき霞の谷にかげかくし てる日のくれしけふにやはあらぬ
蔵人頭右近少将良峯宗貞 僧正遍昭
みな人は花の衣になりぬなり こけのたもとよ かわきだにせよ
近院の右のおほいまうちぎみ 能有
うちつけに寂しくもあるか もみぢばも主なき宿は色なかりけり
つらゆき
ほととぎすけさ鳴く声におどろけば きみに別れし時にぞありける
きのもちゆき
花よりも人こそあだになりにけれ いづれを先に恋ひんとか見し
つらゆき
色も香も昔のこさににほへども うゑけん人のかげぞ恋しき
つらゆき
君まさで煙たえにししほがまの うらさびしくも見えわたるかな
みはるのありすけ
君がうゑしひとむらすすき 虫のねのしげきのべともなりにけるかな
とものり
ことならば言の葉さへも消えななむ 見れば涙のたきまさりけり
よみ人しらず
なき人の宿に通はば 郭公 かけてねにのみなくと告げなん
よみ人しらず
たれ見よと花さけるらん 白雲のたつ野とはやくなりにしものを
よみ人しらず
かずかずに我をわすれぬものならば 山の霞をあはれとは見よ
よみ人しらず
声をだにきかで別るるたまよりも なき床にねん君ぞかなしき
大江千里
もみぢ葉を風にまかせて見るよりもはかなきものは 命なりけり
藤原これもと
露をなどあだなる物と思ひけん わが身も草におかぬばかりを
なりひらの朝臣
つひにゆく道とたはかねてききしかど 昨日今日とは思はざりしを
在原しげはる
かりそめのゆきかひぢとぞ思ひこし 今は限りの門出なりけり