小野のたかむら朝臣
泣く涙雨とふらなん わたりがは水まさりなば かへりくるがに
素性法師
血の涙おちてぞたぎつ 白川は君が世までの名にこそ有りけれ
僧都勝延
空蝉はからを見つゝもなぐさめつ 深草の山けぶりだにたて
かむつけのみねを
深草の野辺の櫻し心あらば ことしばかりはすみぞめに咲け
紀友則
寝てもみゆ寝でも見えけり おほかたはうつせみの世ぞ夢にはありける
紀貫之
夢とこそいふべかりけれ 世の中にうつゝある物と思ひけるかな
壬生忠岑
寝るがうちに見るをのみやは夢といはん はかなき世をもうつゝとはみず
壬生忠岑
瀬をせけば淵となりてもよどみけり 別れをとむる柵ぞなき
閑院
さきだたぬ悔いの八千たびかなしきは 流るゝ水の帰りこぬなり
貫之
あす知らぬ我が身と思へど 暮れぬまのけふは人こそかなしかりけれ
忠岑
時しもあれ 秋やは人の別るべき あるを見るだに恋しきものを
凡河内躬恒
神な月しぐれにぬるゝもみぢばは たゞわび人の袂なりけり
忠岑
藤衣はつるゝ糸は わび人の涙の玉の緒とぞなりける
貫之
朝露のおくての山田 かりそめにうき世の中を思ひぬるかな
忠岑
すみぞめのきみが袂は雲なれや たえず涙の雨とのみふる
よみ人しらず
あしひきの山べに今はすみぞめの 衣の袖のひる時もなし
たかむらの朝臣
水の面にしづく花の色 さやかにも君がみかげの思ほゆるかな