山桜 よそに見るとて すがのねの 長き春日を たちくらしつる
藤の花 色ふかけれや 影みれば 池の水さへ 濃紫なる
拾遺集・雑
流れよる 滝の糸こそ よわからじ 貫けとみたれて 落つる白玉
幾代へし 磯辺の松ぞ むかしより たちよる波や 数は知るらむ
夜ならば 月とぞ見まし わがやどの 庭しろたへに 降りしける雪
人はうへ おそく知りけむ 梅の花 咲ける後にぞ 春も来にける
拾遺集・春
梅が枝に 降りかかりてぞ 白雪の 花のたよりに 折らるべらなる
若菜つむ われをひと見ば 浅緑 野辺の霞も たち隠さなむ
鶯の たえず鳴きつる 青柳の 糸にうきふし なくもあらなむ
松をのみ 頼みて咲ける 藤の花 ちとせの後は いかがとぞみる
人もなき やどに匂へる 藤の花 風にのみこそ 乱るべらなれ
見てのみや たち暮してむ さくら花 散るを惜しむに かひし無ければ
惜しみにと 来つるかひなく さくら花 見ればかつこそ 散りまさりけれ
千代までの 雪かと見れば 松風に たぐひて鶴の こゑぞきこゆる
色のみぞ まさるべらなる 磯の松 影みる水も 高ネりけり
帰る雁 わがことつてよ 草枕 旅は家こそ 恋ひしかりけれ
ながれゆく かはづ鳴くなり あしひきの 山吹の花 匂ふべらなり
夏衣 しばしなたちそ ほととぎす なくともいまだ きこえざりけり
ほととぎす 待つところには 音もせで いづれの里の 月になくらむ
来ぬ人を したに待ちつつ ひさかたの 月をあはれと いはぬ夜ぞなき