和歌と俳句

古今和歌集

雑歌

よみ人しらず
世の中はなにか常なる あすか川昨日の淵ぞ今日は瀬になる

よみ人しらず
幾世しもあらじ我が身を なぞもかくあまの刈る藻に思ひ乱るゝ

よみ人しらず
雁のくる峯の朝霧 はれずのみ思ひ尽きせぬ世の中のうさ

をののたかむら朝臣
然りとて背かれなくに 事しあればまづ嘆かれぬ あなう世の中

をののさだき
みやこ人いかにと問はば 山高みはれぬ雲ゐにわぶとこたへよ

小野小町
わびぬれば 身をうき草の根を絶えて 誘ふ水あらばいなんとぞ思ふ

小野小町
あはれてふ言こそ うたて 世の中を思ひ離れぬほだしなりけれ

よみ人しらず
あはれてふ言の葉ごとにおく露は 昔を恋ふる涙なりけり

よみ人しらず
世の中のうきもつらきも 告げなくにまづ知る物は 涙なりけり

よみ人しらず
世の中は夢かうつゝか うつゝとも夢とも知らず ありてなければ

よみ人しらず
世の中にいづらわが身の有りてなし あはれとやいはん あなうとやいはむ

よみ人しらず
山里は物のわびしき事こそあれ 世の憂きよりは住みよかりけり

これたかのみこ
白雲の絶えずたなびく峯にだに住めば住みぬる世にこそありけれ

ふるのいまみち
知りにけん きゝてもいとへ 世の中は 浪のさわぎに風ぞしくめる

そせい
いづくにか世をばいとはん 心こそ野にも山にも迷ふべらなれ

よみ人しらず
世の中は昔よりやは憂かりけん わが身ひとつのためになれるか

よみ人しらず
世の中をいとふ山辺の草木とや あなうの花の色にいでけん

よみ人しらず
み吉野の山のあなたにやどもがな 世のうき時のかくれがにせむ

よみ人しらず
世にふれば憂さこそまされ み吉野の岩のかけ道ふみならしてん

よみ人しらず
いかならんいはほの中に住まばかは 夜の憂きことのきこえこざらむ

よみ人しらず
あしひきの山のまにまに隠れなん うき世の中はあるかひもなし

よみ人しらず
世の中のうけくにあきぬ 奥山のこの葉にふれるゆきやけなまし

もののべのよしな
世のうきめ見えぬ山ぢへいらんには 思ふ人こそほだしなりけれ

凡河内みつね
世をすてて山に入る人 山にてもなほうき時はいづち行くらん

凡河内みつね
今更になに生ひいづらん 竹の子のうき節しげきよとは知らずや