和歌と俳句

古今和歌集

雑歌

よみ人しらず
いざここに我が世は経なん 菅原や伏見の里の荒れまくもをし

よみ人しらず
わが庵は三輪の山もと 恋しくはとぶらいきませ 杉立てるかど

きせん法師
我が庵は宮この辰巳 しかぞすむ 世をうぢ山と人はいふなり

よみ人しらず
荒れにけり あはれ幾代のやどなれや すみけん人の訪れもせぬ

よしみねのむねさだ
わび人のすむべきやどと見るなべに 嘆きくはゝる琴の音ぞする

源いたるの朝臣がむすめ 二条
人ふるす里をいとひてこしかども 奈良のみやこもうき名なりけり

よみ人しらず
世の中はいづれかさして我がならん ゆきとまるをぞ宿と定むる

よみ人しらず
逢坂のあらしの風は寒けれど ゆくへ知らねばわびつつぞ寝る

よみ人しらず
風のうへにありかさだめぬ塵の身は ゆくへも知らずなりぬべらなり

伊勢
あすか川ふちにもあらぬ我が宿も せに変り行く物にぞ有りける

紀友則
ふるさとは見しごともあらず 斧の柄のくちし所ぞ恋しかりける

橘くずなほがむすめ みちのく
あかざりし袖のなかにや入りにけん わが魂のなき心地する

藤原忠房
なよ竹のよながきうへに 初霜のおきゐて物を思ふころかな

よみ人しらず
風ふけば沖つ白波たつた山 夜半にや君がひとりこゆらん

よみ人しらず
たがみそぎ木綿つけ鳥か 唐衣たつたの山にをりはへてなく

よみ人しらず
忘られん時しのべとぞ 浜千鳥 行くへも知らぬあとをとどむる

文屋ありすゑ
神な月時雨ふりおける楢の葉の名におふ宮のふるごとぞ これ

大江千里
葦鶴のひとりおくれて鳴くこゑは 雲の上まできこえつがなん

藤原かちおん
人知れず思ふ心は 春がすみ たちいでて君が目にも見えなむ

伊勢
山川の音にのみきくもゝしきを 身をはやながら見るよしもがな