わがうへに露ぞおくなる 天の川とわたる舟のかいのしづくか
思ふどちまろゐせる夜は 唐錦 たゝまく惜しき物にぞありける
うれしきを何につゝまん 唐衣たもとゆたかにたてといはましを
限りなき君がためにと折る花は 時しもわかぬ物にぞありける
紫のひともとゆゑに 武蔵野の草はみながらあはれとぞ見る
業平朝臣
むらさきの色こき時は 目もはるに野なる草木ぞわかれざりける
近院右大臣源能有
色なしと人や見るらん 昔よりふかき心にそめてしものを
ふるのいまみち
日の光やぶしわかねば 石上ふりにし里に花もさきけり
業平朝臣
大原やをしほの山も けふこそは神世のことも思ひいづらめ
よしむねのむねさだ
天つ風 雲のかよひぢ吹きとぢよ をとめの姿しばしとゞめん
河原左大臣源融
主やたれ 問へどしら玉いはなくに さらばなべてやあはれと思はん
としゆきの朝臣
玉だれのこがめやいづら こよろぎの磯の波わけ沖にいでけり
けむげいほうし
かたちこそみ山がくれの朽木なれ 心は花になさばなりなん
紀友則
蝉の羽のよるの衣はうすけれど 移り香こくもにほひぬるかな
よみ人しらず
おそくいづる月にもあるかな あしひきの山のあなたも惜しむべらなり
よみ人しらず
わが心なぐさめかねつ 更級や姨捨山にてる月を見て
業平朝臣
おほかたは月をもめでし これぞこの積れば人の老となるもの
紀貫之
かつ見れどうとくもあるかな 月かげのいたらぬ里もあらじと思へば
紀貫之
ふたつなき物と思ひしを 水底に山のはならでいづる月かげ
よみ人しらず
天のかは雲のみをにてはやければ 光とゞめず月ぞながるゝ
よみ人しらず
あかずして月の隠るゝ山もとは あなたおもてぞ恋しかりける