和歌と俳句

古今和歌集

雑歌

よみ人しらず
世にふれば言の葉しげき くれ竹のうき節ごとに鶯ぞなく

よみ人しらず
木にもあらず草にもあらぬ竹のよの はしにわが身はなりぬべらなり

よみ人しらず
我が身からうき世の中と名づけつつ 人のためさへ悲しかるらむ

たかむらの朝臣
思ひきや ひなの別れに衰へて あまの縄たきいさりせんとは

在原行平朝臣
わくらばに問ふ人あらば 須磨の浦にもしほたれつつわぶとこたへよ

をののはるかぜ
天彦のおとづれじとぞ今は思ふ 我か人かと身をたどる世に

平さだふん
うき世には門させりとも見えなくに などかわが身のいでがてにする

平さだふん
ありはてぬ命まつまのほどばかり うき事しげく思はずもがな

みやぢのきよき
筑波嶺のこのもとごとにたちぞ寄る 春のみやまの蔭を恋ひつつ

清原深養父
光なき谷には春もよそなれば 咲きてとくちるもの思ひもなし

伊勢
久方の中におひたる里なれば 光をのみぞ頼むべらなる

業平朝臣
今ぞ知る 苦しき物と 人またん里をばかれずとふべかりけり

業平朝臣
忘れては夢かとぞ思ふ 思ひきや 雪ふみわけて君を見んとは

業平朝臣
年を経て住みこし里をいでていなば いとゞ深草野とやなりなん

返し よみ人しらず
野とならば鶉となきて年はへん かりにだにやは君はこざらむ

よみ人しらず
我を君難波のうらにありしかば うきめをみつのあまとなりにき

返し よみ人しらず

難波潟うらむべきまも思ほえず いづこをみつのあまとかはなる

よみ人しらず
今さらにとふべき人も思ほえず 八重葎して門させりてへ

みつね
水の面におふるさ月の浮草の うき事あれや 根をたえてこぬ

みつね
身をすててゆきやしにけん 思ふより外なる物は心なりけり

みつね
君が思ひ雪とつもらばたのまれず 春より後はあらじとおもへば

宗岳大頼
君をのみ思ひこしぢの白山は いつかは雪のきゆるときある

紀貫之
思ひやる越の白山 しらねども ひとよも夢にこえぬ夜ぞなき