和歌と俳句

伊勢物語

<< 戻る | 次へ >>

二十七段

 昔 をとこ 女のもとに一夜いきて 又も行かずなりにければ  女の 手洗ふ所に 貫簀をうち遣りて たらひのかげに見えけるを みづから 

  我ばかり物思ふ人は又もあらじと思へば水の下にも有けり 

とよむを 来ざりけるおとこ立ち聞きて 

  水口に我や見ゆらんかはづさへ水の下にて諸声になく

二十八段

 昔 色好みなりける女 出でて去にければ  

  などてかくあふごかたみになりにけむ水もらさじと結びしものを

二十九段

 むかし 春宮の女御の御方の花の賀に 召しあづけられたりけるに 

  花に飽かぬ歎きはいつもせしかども今日のこよひに似る時はなし

三十段

 むかし おとこ はつかなりける女のもとに  

  逢ふことは玉の緒ばかりおもほえてつらき心のながく見ゆらむ