むかし 宮の内にて ある御達の局の前を渡りけるに
何のあたにか思けん よしや草葉よ ならんさが見む といふ おとこ
罪もなき人をうけへば忘草をのがうへにぞ生ふといふなる
といふを ねたむ女もありけり
むかし 物いひける女に 年ごろありて
いにしへのしづのをだまき繰りかへし昔を今になすよしも哉
といへりけれど 何とも思はずやありけん
むかし おとこ 津の国 菟原の郡に通ひける女
このたび行きては 又は来じと思へるけしきなれば おとこ
蘆辺より満ちくる潮のいやましに君に心を思ます哉
返し
こもり江に思ふ心をいかでかは舟さすさほのさして知るべき
ゐなか人の事にては よしやあしや