和歌と俳句

伊勢物語

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三十一段

 むかし 宮の内にて ある御達の局の前を渡りけるに  何のあたにか思けん よしや草葉よ ならんさが見む といふ おとこ 

  罪もなき人をうけへば忘草をのがうへにぞ生ふといふなる 

といふを ねたむ女もありけり

三十二段

 むかし 物いひける女に 年ごろありて 

  いにしへのしづのをだまき繰りかへし昔を今になすよしも哉 

といへりけれど 何とも思はずやありけん

三十三段

 むかし おとこ 津の国 菟原の郡に通ひける女  このたび行きては 又は来じと思へるけしきなれば おとこ 

  蘆辺より満ちくる潮のいやましに君に心を思ます哉 

 返し 

  こもり江に思ふ心をいかでかは舟さすさほのさして知るべき 

 ゐなか人の事にては よしやあしや