和歌と俳句

伊勢物語

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六十一段

 昔 をとこ 筑紫までいきたりけるに これは色好むといふすき者  とすだれのうちなる人のいひけるをききて 

  染河をわたらむ人のいかでかは色になるてふことのなからむ 

 女 返し

  名にしおはばあだにぞあるべきたはれ島浪の濡衣きるといふなり

六十二段

 むかし 年ごろおとづれざりける女 心かしこくやあらざりけむ  はかなき人のことにつきて 人の國なりける人につかはれて  もと見し人の前に出で来て 物食はせなどしけり  夜さり このありつる人たまへ とあつじにいひければ おこせたりけり  をとこ 我をば知らずや とて

  いにしへのにほひはいづら桜花こけるからともなりにけるかな 

といふを いと恥づかしと思ひて いらへもせでゐたるを などいらへもせぬ  といへば 涙のこぼるるに 目も見えず ものもいはれず といふ 

  これやこの我にあふみをのがれつつ年月ふれどまさりがほなき 

といひて 衣脱ぎてとらせけれど 捨てて逃げにけり いづちいぬらむとも知らず