むかし 世心つける女 いかで心なさけあらむをとこにあひ得てしがなとおもへど
言ひ出でむもたよりなさに まことならぬ夢語りをす 子三人を呼びて かたりけり
二人の子は なさけなくいらへて止みぬ 三郎なりける子なむ よき御男ぞいでこむ
とあはするに この女 気色いとよし こと人はいとなさけなし
いかでこの在五中将にあはせてしがなと思ふ心あり 狩しありきけるにいきあひて
道にて馬の口をとりて かうかうなむ思ふ といひければ あはれがりて 来て寝にけり
さてのち をとこ見えざりければ 女 をとこの家にいきてかいまみける をとこほのかに見て
百年に一年たらぬつくも髪我を恋ふらし面影に見ゆ
とて出でたつ気色を見て うばらからたちにかかりて 家に来てうちふせり
をとこ かの女のせしやうに 忍びて立てりて見れば女なげきて寝とて
さむしろに衣かたしきこよひもや恋しき人にあはでのみ寝む
とよみけるを をとこあはれと思ひて その夜は寝にけり
よのなかの例として 思ふをば思ひ 思はぬをば思はぬものを
この人は 思ふをも 思はぬをも けぢめ見せぬ心なむありける
昔 をとこ みそかに語らふわざもせざりければ
いづくなりけむあやしさによめる
吹く風にわが身をなさば玉簾ひま求めつつ入るべきものを
返し
とりとめぬ風にはありとも玉簾たがゆるさばかひま求むべき