和歌と俳句

伊勢物語

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七十段

 むかし をとこ 狩の使より帰りきけるに 大淀のわたりに宿りて 斎宮の童べにいひかけける

  見るめかる方やいづこぞ棹さして我に教へよあまの釣舟

七十一段

 昔 をとこ 伊勢の斎宮に 内の御使にてまゐりければ  かの宮にすきごといひける女 わたくしごとに 

  ちはやぶる神の斎垣も越えぬべし大宮人の見まくほしさに 

をとこ 

  恋しくは来ても見よかしちはやぶる神のいさむる道ならなくに

七十二段

 むかし をとこ 伊勢の國なりける女 又え逢はで 隣の國へいくとて いみじう恨みければ 女 

  大淀の松はつらくもあらなくにうらみてのみもかへるなみかな

七十三段

 むかし おこにはありと聞けど 消息をだにいふべくもあらぬ女のあたりを思ひける 

  目には見て手にはとられぬ月のうちの桂のごとき君にぞありける

七十四段

 むかし をとこ 女をいたう恨みて 

  岩ねふみ重なる山にあらねども逢はぬ日おほく恋ひわたるかな