昔 をとこ 伊勢の國に率ていきてあらむ といひければ 女
大淀の濱におふてふみるからに心はなぎぬ語らはねども
といひて ましてつれなかりければ をとこ
袖ぬれて海人の刈りほすわたつうみのみるをあふにてやまむとやする
女
岩間より生ふるみるめしつれなくは潮干潮満ちかひもありなむ
又 をとこ
涙にぞぬれつつしぼる世の人のつらき心は袖のしづくか
世にあふことかたき女になむ
昔 二條の后の まだ春宮の御息所と申しける時
氏神にまうで給ひけるに 近衛府にさぶらひける翁
人々の禄たまはるつひでに 御車よりたまはりて よみて奉りける
大原や小塩の山もけふこそは神代のことも思ひ出づらめ
とて 心にもかなしとや思ひけむ いかが思ひけむ 知らずかし