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 工業化 / 実験室から工業化へ  : スケールアップ

全体観把握目的で多種公表情報を基に作成、整合性無い場合もあります。自ら検証して御使用下さい。

  • 1.物性変化、相平衡の考慮
  • 2.処理での律速段階の把握
  • 3. 固体抽出での律速
  • 4.シリーズ運転(半連続装置)
  • 5. CO₂の回収・精製法
  • 6. 処理量と処理費の相関
  • 7.運転条件とモリエル線図

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抽出装置写真
図1. 超臨界CO₂抽出 農薬除去装置
抽出フロー図
図2. 超臨界CO₂抽出装置基本フロー

超臨界CO₂による食品エキスからの農薬除去装置を図1に、高圧超臨界CO₂抽出装置の基本フローを図2に示します。含浸や乾燥など他の超臨界処理と基本的なフローはほぼ同様で、助剤供給(Entrainer System)、処理容器 (Extractor)周辺、CO₂の分離回収(Separators)などを使用目的に応じた最適なプロセスに組み上げる必要があります。超臨界CO₂を用いて工業的に機能性製品などを製造するためには、各処理条件に対応した基礎データの採取 によって、助剤の使用有無も含めた最適処理条件や、使用処理容器の仕様と基数の選定も含めた工業化に至るエンジニアリングを総合的にかつ効率的に行っていくことが重要です。
特に、超臨界CO₂は、圧力と温度で物性値が「大きく変化する事が特徴」のため、機械設計・製作の知見(高圧装置技術/機械工学)だけでは経済的な運転ができる最適な装置設計とはならず、流体の特性を踏まえたプロセス技術・設計を加味 することが非常に重要です。例えば、超臨界CO₂は減圧すると液相やドライアイスが発生(図3)し、それがプロセス全工程を律速する場合があります。

モリエル線図とドライアイス生成写真
図3. エンタルピーとドライアイス発生例

超臨界CO₂装置は、高圧で且つバッチ操作が一般的なため、特殊な高圧容器が要求され、機械メーカが全体製作者として選定される場合があります。化学プラントの設計では、エンジニアリング会社が危険リスクも含めた各種プロセス 検討(プロセス技術/化学工学)を行います。超臨界装置も同様な検討が必須ですが、化学プラント設計での常識が、機械メーカではその必要性・存在も知らないケースがあります。この結果、大型装置がプロセス的に「想定外」 との理由で満足に商業的に稼働していない事例が、国内に散見されます。超臨界流体装置を導入する場合は、図4に示す各技術が融合することが最重要な必須条件です(図4中★番号は表1参照)。装置導入時には表1に示す項目を少なくとも明確に 回答できることが必要最低限の出発点になります。

超臨界CO2装置必須構成技術
図4. 超臨界CO₂装置必須構成技術

ここでは、被処理物が、半導体ウエハ、プラスチックなどのシート/フィルム、種子などの植物原料、あるいは湿潤エアロゲルなどの固体物を超臨界CO₂で処理する、即ち、処理容器内への原料充填をバッチ式で行うプロセスを実験 室規模から効率的に工業化するために検討すべき事項について説明します。固体物を処理容器にバッチで充填/払出しするため、処理(圧力)容器の蓋は急速開閉できる形状のものが採用されます。詳細はJIS-B8284:圧力容器の急速開閉ふた装置を参照下さい。また、圧力容器のため、 胴径に応じて分厚い肉厚となり、大型の被処理物の処理時には注意が必要です。圧力容器の肉厚は図5右図に示すように、内径が大きくなると分厚くなります。このため、同一容積、例えば、1㎥容器の場合は、図5左図に示すように、L/D(容器長さ /容器内径)が大きい程軽い容器になりますので、被処理物の充填する方法も踏まえて極力L/Dが大きい容器になるように計画する事になります。一方、L/Dが大きくなると、容器長さが長くなり、道路の輸送制限(車両長さ:12m, 幅:2.5m, 高さ:3.8m,重量:20tonを 超える場合は通行許可が必要)にも注意が必要です。

肉厚影響

図5. 圧力による容器肉厚影響

表1. 超臨界CO₂装置のミニマム必須確認項目
★1:安全弁・安全装置は、高圧ガス保安法の規定条件以外も考慮しているか ?
【装置の安全に係わる最重要事項 ! 】

★2:熱交換器は、運転最大圧力・最大温度以外の条件も考慮しているか ?
【他の条件で満足な運転ができない ! 】

★3:圧力制御弁は、超臨界流体の特性を考慮して選定されているか ?
【安定した圧力制御、効率的減圧ができない ! 】

★4:二酸化炭素の昇圧ポンプは、「加速度抵抗」を考慮して設計しているか ?
    詳細はこちらを参照
【所定の流量がでない場合がある ! 】

★5:実用化・工業装置の経済性を考慮したプロセス検討・設計をしているか ?
【研究・開発が成功しても実用化しない場合がある ! 】

★6:減圧工程含めた最適スループット(処理時間)を考慮した設計か ?
【減圧時間が経済性を大きく左右する場合がある ! 】

★7:実験室から工業化へのステップに示すプロセス設計が全てされているか ?
【運転はできるが実用化しない場合がある ! 】

★8:アプリケーションに最適な超臨界条件が選択されているか ?
【実現性が低下する ! 】

例:溶解度が10倍変化 ! Ex:0.2wt% @ 20MPa → 22wt% @ 77MPa
  界面張力フリーな超臨界CO2で、割れ・収縮が起こる !
             → 物質移動には時間項の考慮が必要 !

工業化するためには、得られる処理物の性状評価などは当然のことながら、高圧装置では特に重要な経済性成立の観点で、①高スループット(処理時間の短時間化→コンパクトな装置)、 ②低ランニングコストを可能にするプロセスと装置の検討が必要です。一方、超臨界プロセスで使用するCO₂は、アンモニア製造や石油精製プラントなどから反応副産物として排出され、回収液化されたものをリユースとして使用するもの です。しかしながら、環境省温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル(Ver3.3)(平成24年5月)の第Ⅱ編温室効果ガス排出量の算定方法(II-55)によると、例えば、アンモニア製造過程で回収し他人へ供給する場合のCO₂は排出量の算定外と なります。その回収されたCO₂をリユースするドライアイスや噴霧器から排出されるCO₂は排出量として算定されます。このため、超臨界プロセスで使用するCO₂も温 室効果ガス排出量として算定されると考えられ、経済的なCO₂の回収・精製・循環使用が経済性成立も含めて、非常に重要になります。

 実験室規模から工業化規模へスケールアップするには、図6に示すように大きく分けると二つのルートがあります。超臨界CO₂に関する研究・開発の経験(+物性,相平衡の知見)、シミュレーション技術、装置設計・製作および運転経験 が豊富にあるとベンチ/パイロット試験を経ずに左側ルートで短期的に直接工業化が可能になります。その実例として、CO₂ではありませんが超臨界水での短期の直接工業化の例を図7に示します。この場合は、試験装置での各種試験結果 をもとに、約3千倍のスケールアップ設計を行い、約2ヶ月の試運転・性能確認運転の後に超臨界水を用いた世界初の廃棄物のケミカルリサイクルプラントとして商業運転を実現しました。スケールアップ技術の活用により、短期間で工業化を実現 でき、化学工学会技術賞を受賞しています。実験室規模から工業化するために検討すべき項目の概要を図6に記載しています。安全・操作性に係るHAZOP検討(Hazard and Operability Study)は当然の事ながら、特に超臨界CO₂の特性を把握・ 理解した上での経済性を成立させるための設計検討が重要で、その幾つかの例を以下に紹介します。

実験室から効率的な工業化へ

図6. 超臨界CO₂装置:実験室から甲辣的な工業化へ

3000倍のスケールアップ

図7. 三千倍のスケールアップ技術


1. 物性変化、相平衡の考慮 このページのトップへ

 超臨界CO₂は圧力・温度の変化によってその物性を制御することができるのが大きな特徴です。温度一定の条件下では、圧力の上昇に伴って密度や粘度は徐々に大きくなります。一方、比熱、エンタルピーは臨界圧から20MPa程度までは 特異な変化をし、僅かな変化で大きく変わります。例えば、圧力8.5MPa一定条件下で、37℃の定圧比熱は18kJ/kg・Kであるのに対し、50℃、60℃では、各々3.0 kJ/kg・K、2.1kJ/kg・Kと1/6以下に低下します。温度60℃におけるエンタルピーは圧力に よって大きく異なり、20MPa、10MPaでは、各々628kJ/kg、728kJ/kgとなります。高圧であるほど、昇温に必要なエネルギーが少なくてよいことになります。このため、高圧では処理できるが低圧にすると所定の温度での処理ができない、逆に高圧 にすると減圧に予想以上の時間がかかる、減圧時にドライアイスが容器内で発生し容器が破損する(図3)などの諸問題が発生します。

3成分系相平衡図

図8. 超臨界CO₂ - 水 - エタノール系の3成分平衡データ

 処理時間が最小で運転範囲が広く、且つ、装置の安定性を保持した装置仕様を決定するためには、装置の運転操作条件下における超臨界CO₂の特徴である物性特性から推定される装置に及ぼす影響などを充分に検討することが重要です。 超臨界CO₂の比誘電率は1.1~1.6、溶解度パラメータは4~20MPa1/2程度で無極性な流体であるため、水などの極性流 体をほとんど溶解しません。このため、極性を有する助剤を添加して極性を付与し、極性物質の溶解度を増やすことができます。例えば、水は常温付近では超臨界CO₂にコンマ数%しか溶 解しませんが、アルコールを助剤として加えると数十%の水を溶解させることができます(図8参照)。

 上記より、処理費用などの経済性を検討する際には、①処理の律速段階に応じた圧力・温度の選定(応用・適用分野:抽出の高圧抽出参照,高圧の選定で助剤不使用な例もあります)、②圧力・温度で処理速度不足の場合は助剤の選定(溶 解度律速であれば良溶媒を選定)、③CO₂の回収・精製のし易さ(CO₂に溶解しやすいものは逆に精製しにくい)、④可燃/爆発性・有害性(CO₂は非防爆で安全な流体,助剤使用の優劣)などの観点での最適化の検討が必要です。

コスト比較

図9. 単独運転とシリーズ運転のコスト比較

2. 処理での律速段階の把握 このページのトップへ

 超臨界CO₂でバッチ処理を行う場合、その設備投資額は、大きく分けて、①被処理物の処理量などで決まる処理容器サイズと、②CO₂を昇圧・昇温して供給、回収・精製する循環系のCO₂流量の二つの因子に影響を受けます( 図9参照)。例えば、処理時間を短くするためにCO₂流量を増やすと、処理容器の価格は下がりますが、CO₂循環系の設備価格は逆に増加し、用役費も増加します。このため、プロセスの経済性は、被処理物の充填、昇圧・昇温、処理 (含浸/抽出/乾燥など)、リンス(助剤排出)、減圧、被処理物の取り出しなどの各工程の内、どの工程が律速段階かを踏まえた上での最適な工程時間の割り振りに大きく左右されます。また、エアロゲルや機能性成分を含有した植物原料など の多孔体を処理する場合、処理の律速段階が超臨界CO₂に対する成分の溶解過程なのか、成分の多孔体内の拡散(移動)過程なのかを判断した上で、超臨界CO₂の供給流量などを決める必要があります(応用・適用分野/乾燥の4.効率乾燥法:傾斜置換乾燥法を参照下さい)。

レイノルズ数と境膜物質移動係数

図10. レイノルズ数と境膜物質
移動係数(kf)との相関図

内部撹拌機付処理容器

図11. 内部撹拌機付超臨界CO₂染色容器
(@デルフト工科大学)

 超臨界CO₂側の境膜物質移動係数を大きくする(図10)ために、処理容器の外部に循環ポンプを設置(応用・適用分野/乾燥の4.効率乾燥法:乾 燥装置フロー図を参照下さい)して被処理物表面流速を高める検討がなされる場合があります。超臨界CO₂の場合は流速感度が低いとともに、溶解対象物が超臨界CO₂に溶解している場合は、ドライビングフォースがその分小さくな り(応用・適用分野/乾燥の4.効率乾燥法:拡散モデル図を参照下さい)、必ずしも抽出速度が早くなりません。減圧時の循環系配管などへの溶解物の析出 などの副次的な問題が発生する場合もあります。このため、処理容器内での内部循環(図11)、あるいは、減圧・回収して昇圧・循環するケースなどを含めたプロセス全体の総合的な比較検討が必要となります。
以上のことから、バッチ処理の場合は特に律速段階となる工程の把握と、超臨界CO₂の流体特性を踏まえた検討が必須となります。

3. 固体抽出での律速 / 固体抽出影響因子 このページのトップへ

図12.大豆油抽出における原料粒径の影響

図12. 大豆油抽出における
原料粒径の影響

大豆油抽出における水分の影響

図13. 大豆油抽出における
水分の影響

 植物種子やシリカエアロゲルなどの多孔質体固体の抽出は、図12~14に示すように、抽出初期は二酸化炭素流量に比例して進み、その後抽出率の傾きは一般的には小さくなります。これは、抽出初期は二酸化炭素中で飽和になり抽出が進む、 すなわち、抽出初期には固体試料の表面の境膜物質移動が律速になり、その後粒子内の物質移動が律速となるからです。固体抽出では、一般的に溶解度律速/境膜物質移動律速段階と固層内物資移動律速の二段階からなるため、抽出速度を律速する、 影響する因子としては、以下があり、これらを最適化することが抽出処理費用の低減に繋がります。

① 試料の性状

  a) 粒径
   抽出速度は、超臨界CO₂の溶解度が小さい場合には、抽出のドライビングフォースが小さいため、粒径(d)と空隙率(εp)等の影響を大きく受けます。一方、粒径が細かすぎると抽出物等により凝集する場合があります。 例えば、工業的トウガラシの超臨界CO₂抽出の場合は、60メッシュ前後(250μm)に揃える事が重要と指摘されています (超臨界流体のすべて(テクノシステム社発行)p.376より)。このため、試料によりますが、少なくとも、500μm前後以下が推奨されます。  → 図12 参照
b) 細胞壁の有無、抵抗 (壁の破壊が必要)   → 「爆砕処理」の適用参照
c) 粉体内性状(空隙率、迷宮度等)       → 「半連続装置 [セミバッチ]」参照
d) 抽出物等による粉体の融着、チャネルング
e) 溶媒との相性:水分 (抽出影響)
  水分があると特に油脂類は抽出しにくくなります。 → 図13 参照
 工業的トウガラシの超臨界CO₂抽出の場合は、水分を6%以下にする事が重要と指摘されています (超臨界流体のすべて(テクノシステム社発行)p.376より)。
 超臨界CO₂は、無極性流体で、極性物質の抽出の場合は、水の添加などのエントレーナが有効な場合があります。

② 超臨界CO₂中の対象物質の溶解度 (超臨界CO₂の圧力・温度に依存)

トリグリセリドの溶解度と抽出挙動試算例

図14. 超臨界CO₂に対するトリグリセリドの溶解度と抽出挙動試算例

 経済性に大きく影響する抽出速度は、抽出温度・圧力に大きく依存する溶解度で決まります。一般的に、抽出温度が高いほど、物質の蒸気圧が高くなり、物質の動きが活発になり溶解度が高くなります。反対に、温度が高くなるとCO₂ の密度が低くなり、溶解度が低下します。このため、温度を上げる場合は、圧力も上げた方が良いのが一般的です。典型的な例は、図14に示す超臨界CO₂へのトリグリセリド(中性脂肪)の溶解度です。 特に成分の揮発性が高まる60℃以上の温度で、かつCO₂密度が高い高圧条件で溶解度が顕著に増加します。このため、従来技術における低圧抽出条件(30MPa,50℃)での抽出率と同じ結果を高圧抽出条件(80MPa,70℃) で得るために必要な超臨界CO2の供給量は大幅に低減が可能です。これらから、抽出時間の大幅な短縮、CO₂供給量の低減による抽出装置の小型化などが可能になり、装置利用効率の向上、用役費(ユーティリティ費)などの大幅な低減に繋がります。

図15.黒胡椒(ピペリン含有)抽出

図15. 黒胡椒(ピペリン含有)抽出

 同様な例として、黒胡椒からのピペリン抽出(図15)では、抽出初期段階のS/F=30( Solvent/Feedで原料に対する供給CO₂の重量倍数)の時の抽出率の圧力依存性が非常に大きいです。 これは抽出初期の抽出速度が溶解度律速過程にある事を示していますが、図中の➡で示すように圧力を30MPaから45MPa以上に高くすることによって特に抽出前半では同一抽出率を得るための抽出時間が 1/3になることが確認されています。

 多孔質体固体の抽出時の超臨界CO₂流体側のバルク相/超臨界層と固体側の固層の時間tと固体充填相高さでの物質収支式を立てると以下となります。  (詳細は、神戸製鋼技報,vol.42 No.3 p84 (1992)を参照下さい。)
 固体抽出基礎式


拡散モデル図

図16. 拡散モデル図

拡散モデル図

Sc:シュミット数=粘度/密度・拡散係数、Re:レイノルズ数
図17. 物質移動係数

 総括物質移動係数K(X)の圧力依存性が小さい場合には、濃度差が抽出速度のドライビングホースとなり、上記、黒胡椒の場合は、高圧で溶解度が大きくなり、抽出速度が 早くなった事を示しており、これより、a)拡散律速(固体内移動)では無く、b)溶解度律速で、高圧化がその律速を改善する、事を示している一例となります。

③ 輸送係数・拡散係数D       (超臨界CO₂の圧力・温度、流速他に依存)

 上記②に示す総括物質移動係数K(X)は、図17の式に示すように境膜内の拡散係数Dと粒子内の拡散係数Dsの関数で、この拡散係数は、別ページのCO₂拡散係数に示すように、 超臨界CO₂の圧力、温度に相関して大きく変化し、抽出速度に影響します。温度が高いほど、拡散係数は大きくなり、圧力が高くなると低くなります。また、図10に示すように、境膜内物質移動係数はバルク流速にも影響を受けます。
 抽出速度は、上記②項の物資収支式に示すように、総括物質移動係数K(X)に比例しますが、この総括物質移動係数K(X)は、境膜内物資移動係数kfと粒子内物質移動係数kinの逆数和に比例しますので、どちらか一方を大きくしても、他方が小さいと抽出抵抗が大きくなり、抽出に時間がかかります。 このため、境膜と粒子内も含めた、処理条件の最適化が必須となります。

Ⓧ 溶解度 律速 ⇒ 拡散 律速       (超臨界CO₂の圧力の変化)

 固体抽出の律速段階は、表題と図18に示すように溶解度に相関する律速段階から、固体空隙内の物資移動に関する拡散係数Dに相関する拡散律速に移行し、各々の律速期間は圧力に逆相関します。
即ち、一般的には、溶解度は物質の揮発性を高めるために温度上げ、密度低下を保障するために圧力を上げる方が良く(図14右図)、一方、拡散係数は分子運動を高めるために温度を上げた方が大きくなりますが、圧力が高く密度が大きいと拡散性は低下(CO₂拡散係数参照)します。 このため、抽出後半(拡散律速期間)では、上記②項の物質収支式に示すドライビングホース(濃度差C*-C)項の低下よりも、総括物資移動係数K(X)項が大きくなる程度に圧力を下げると抽出効率が高まる場合があります。

4. シリーズ運転(半連続装置)の検討 このページのトップへ

抽出器出口油脂量の経時変化

図18. 超臨界CO₂による単独 及び
シリーズ運転での大豆油抽出率

 固体原料の充填・払出は、蓋開閉が自動化されたバッチ式処理容器を使用して短時間で行われます。その間、処理容器への超臨界CO₂の供給が停止されます。多孔体からの抽出/乾燥の場合は、図18(大豆油の抽出)に示すように抽出初期 (~3時間)は溶解度律速で進み(境膜の物質移動には抵抗が無く、抽出率が時間に比例して増加)、3時間経過後の抽出後期は拡散律速(多孔質体の移動に抵抗が存在)のため、急激に処理容器出口のCO₂中の油脂濃度が低下し、CO₂の利用効率が非常に悪くなります (図19の左図)。

抽出器出口油脂量の経時変化

図19. 抽出器出口油脂量の経時変化

このため、応用・適用分野/乾燥の4.効率乾燥法:シリーズ運転図とフロー図に示すように複数の処理容器を直列に並べ、CO₂が不飽和となる抽出開始4時間後に他の処理容器に超臨界CO₂を 供給することにより、処理容器出口の超臨界CO₂中の油脂は、常にほぼ飽和量にすることができます(図19右図)。シリーズ運転することにより、CO₂を効率的に利用でき、かつ、加熱/冷却、分離・回収などの循環工程、分離工程のスリ ム化に繋がり、図9に示すように、設備費及び用役費の大幅な低減が図れます。

5. CO₂の回収・精製法の検討 このページのトップへ

 超臨界流体NETらは、発酵アルコールの精製プロセスにおいて、抽出溶媒として使用する超臨界CO₂を減圧・回収し、99.9%以上に精製して再使用するプロセスを設計・製作し、長期間実証運転した経験があります。この実績に対し、分離 技術賞を受賞しました。CO₂の回収・精製は、臨界圧力以下に減圧して行いますが、回収圧力によりエンタルピーが大きく異なり大きく経済性に影響します。例えば、回収圧力が4MPaと6MPaでは、使用できる凝縮用冷却媒体の違いもあり、4 MPaの条件での電気代が大幅に高くなります。逆に、CO₂純度の向上は4MPaの低圧の方が有利になります。また、温室効果ガス排出量の削減目的のため、圧縮機で分離・回収圧力以下のCO₂を積極的に回収する場合も圧縮比との兼合いで 回収する費用が大幅に異なってきます。詳細は、工業化/温室効果ガス・CO₂回収を参照下さい。

大豆油シリーズ抽出図

図20. 処理量と処理費用の相関

6. 処理量と処理費の相関 このページのトップへ

 開発あるいは工業化検討を開始するに当り、簡易の経済性評価(フィジビリティ・スタディ)を実施し、目的とするプロセスにおける律速工程や処理費用の相対感度などを把握し、開発課題を整理した上で実際の詳細な検討を進めるのが通常で す。有機固形物に機能剤を15MPa、60℃で含浸処理し、CO₂を所定圧で回収・精製・循環使用する場合の超臨界CO₂の処理費用のケーススタディ結果の一例を図20に示します。処理時間が2時間と4時間の2ケースで、処理費用(固定費[ 減価償却費他]+変動費[用役/助剤/CO₂購入費])に及ぼす処理 (生産) 量の影響を示しています。実際の処理費用はこの費用以外に含浸する機能剤購入費、運転/保守要員労務費、管理費などを加算します。この試算結果より、処理費 用に占める固定費と変動費の割合は処理量によって異なる事が分かります。この結果を踏まえ、①目標処理費用に対する処理量と処理時間の設定、②設定処理時間に対する律速となる工程の見直し(昇圧/処理/減圧他の最適化)、③処理条件の 検討(処理律速となる工程とCO₂供給量/圧力/温度他の最適化)、④CO₂回収・精製工程の検討(回収圧力/CO₂購入費/設備投資額の最適化)の検討を行い、開発課題の抽出、優先順位付けを行います。
 工業化を実現するためには、上述のようにプロセス全体の効率化と処理量を踏まえた処理費用の最適化のための検討が必要です。それとともに、バッチ操作、高圧下での材料特性を踏まえた設計・製造・運転の技術と経験、多数の石油・化学プラ ントなどの流体取扱い装置の設計・建設の技術と経験に基づいた、より安全性、信頼性の高い工業化装置を提供できる能力が必須であると考えています。

7. 運転条件とモリエル線図モリエル線図の説明・使い方はこちら        このページのトップへ

 超臨界CO₂で処理するプロセスの基本設計、運転時の状況確認、トラブルシューティングなどの時に各工程の運転条件でのモルエル線図を確認すると理解しやすいときがあります。フロー図の1~9迄の各工程運転条件に相当する位置を モリエル線図に示します。
【工程説明】 No.1は、昇圧ポンプの吸込み側で、往復動ポンプの脈動によるキャピテーションを防止するために、Coolerで過冷却します。このため、モルエル線図では、液相線よりも内側に位置し、ポンプで昇圧し、No.2になります。 フロー図は、二段階分離のフローを示しますが、No.3での処理(抽出)後に第一減圧し、No.4、その下流の熱交換器で昇温しNo.5で第一分離器に供給、分離した後に第二減圧し、No.6、その下流の熱交換器で昇温しNo.7で第二分離器に供給、分離します。 最終的に完全ガス状態にする必要があり、No.7は、蒸発線(下図右側赤線)よりも右側の位置まで昇温する必要があります。完全ガス状態で第二分離器を出たCO₂は、液体ポンプで昇圧するために、凝縮器 Condenser で全凝縮して完全液化し、 No.8で、一旦、系内での変動吸収のために液状態で受槽 Receiver で貯留します。
【処理温度と必要エネルギー】 モルエル線図より、加熱工程No.2 → No.7で必要な熱量 Enthalpyは、冷却・凝縮工程No.7 → No.1と同等熱量となります。このため、処理(抽出)工程No.3を低い温度で処理しても、分離のために完全ガス状態のNo.7迄加熱が必要なため、 被処理物の可能な許容温度まで昇温して処理しても必要熱量的には、同一となります。ヒートポンプが使用できると必要エネルギーは、非常に小さくなります。処理温度が高いと粘度が下がり拡散係数が大きくなるため処理速度が速くなりますが、密度は、モリエル線図 が示すように20MPa以下では急激低密度になり、溶解度が大きく下がります。これを避けるためには、高圧・高温度での処理条件も含めた総合的な検討が必要になります。
 また、装置設計時に1点の圧力・温度で熱量/熱交換器設計すると、処理条件で低圧化しなければならなくなった時には、熱量不足、熱交換器の伝熱面積不足で所定温度まで昇温できない場合が、発生します。

運転条件とモリエル線図

図21. 運転条件とモリエル線図

8. 圧力容器の急速開閉ふた装置このページのトップへ

JISB8284に設計圧力が100MPa未満、設計温度が250℃以下の圧力容器の急速ふた装置の耐圧部の計算について規定されています。この規格での急速開閉ふた装置は以下の3種類です:

急速開閉ふたの種類

図22. 急速開閉ふたの種類

 a) クランプ継手型
b) インテグラル型 :つめ付き:ふた板をつめどうしで連結する構造
セクショナルリング型:ふた板をセクショナルリングで抑える構造
c) ヨークフレーム型:圧力容器の胴の両端に取付くふた板をヨークフレームで抑える構造
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注記:使用数値・図は全体観を把握する事が目的で、試験研究・設計等に使用する事を前提としていません。記載内容を利用される場合は自ら数値等を確認・検証し、自らの責任にてご使用下さい。 このページのトップへ
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