構成(1) CO₂自己拡散係数
(2) 相互拡散係数
(3) 物質移動係数
各種溶媒粘度

図1. CO₂と各種溶媒粘度

 溶質の濃度勾配に起因する拡散現象は、抽出・乾燥他の設計・操作に利用されます。その際、溶媒と対象物質となる抽出物資の拡散係数が物性値として必要になります。拡散現象は、次式で示されるフィック(Fick)の第一法則で表されます。
J (拡散流速)
 = De(拡散係数) × ΔC(濃度差) / ΔX(位置座標)
 液相では分子は高密度で配置しており、近接分子の力の影響を受けます。液相の拡散係数の簡易モデルの一つであるストークス・アインシュタイン(Stokes-Einstein)式では、大きな球形分子が希釈濃度で溶媒中を拡散する場合の二成分拡散係数De(A,B)は、次式で当てはまります。
De(A,B) = R × T / { 6 × π × η(B) × r(A) }
: η(B) = 溶媒の粘度、r(A) = 溶質の球形分子直径
拡散モデル

図2. 拡散モデル図

 

即ち、拡散係数Deは、溶媒粘度に反比例して大きくなり、図1に示すように超臨界二酸化炭素の粘度は他の溶媒と比較して大幅に小さいため、高拡散溶媒として、抽出分野他で活用されています。

流体名称CO₂エタノール水
自己拡散係数 [㎡/s] @50℃3.0E-8 @ 12MPa1.8E-93.7E-9

(1) CO₂の自己拡散係数

二酸化炭素の自己拡散係数は、通常の液体の拡散係数と比較すると、上述のように粘度が非常に小さいため、10倍~100倍大きな値になります。このため、物質の抽出、樹脂への浸透性が速くなります。
  二酸化炭素の自己拡散係数の測定文献値(□印)を図4に示します。水、エタノールと比較し、一桁以上大きく、温度と圧力で大きく変化します。この測定データを元に、各々文献値でデータにバラツキがあるため下表に基づき作成した回帰式を以下に、それに基づく計算結果を図3、4に線で示します。

No.ソース回帰採用データ数
推算式1:≦ 30 MPa、0 ~ 99.85℃推算式2:高密度領域
1.P. Etesse et al.:J. Chem. Phys. 97, p.2022 (1992)46点、内 密度<100kg/㎥=14点の重み75%27点
2.Takahashi & Iwasaki 1966/196815点、全数密度<135kg/㎥で重み150% -
3.Robinson & Stewart 19686点 (0.6, 22.5℃)6点 (0.6, 22.5℃)
4.Groß et al. 19981点、30MPa-100℃、重み125%6点、重み125%
*計68点、AARD=5.5%、Max ARD=17%39点、AARD=3.3%、Max ARD=12%
注記:AARD(Average Absolute Relative Deviation、平均絶対相対偏差)、Max ARD(最大絶対相対偏差)、2026年8月時点のAI評価による
自己拡散係数図

図3. CO₂の自己拡散係数

図3に示す縦軸の拡散係数/温度の値は、粘度が4x10-5Pa sよりも大きい領域では、温度に対してかなりの範囲で収斂しますが、粘度が小さくなると温度による違いが大きくなります。 これは、CO₂だけでなく、Xe、CH₄でも同様で、粘性が小さくなると液体よりも気体の性質が強くなるためと考えられます。例えば、密度が500kg/㎥(図3の黄緑2点鎖線、100℃=21MPa、75℃= 16MPa、50℃=11MPa)以下(図3の左側)で、他の温度からの差異が大きくなります。
このため、推算式は、上表に基づき、低密度域と高密度域に分けて以下の二つの式で整理することにしました。

推算式1:≦ 30 MPa、0 ~ 99.85℃

自己拡散係数推算式1
自己拡散係数図

図4. CO₂の自己拡散係数

推算式2:高密度域 密度 > 500 kg/㎥

自己拡散係数推算式1
 D:CO₂自己拡散係数 [㎡/s]、T:温度 [K]、ρ:密度 [kg/㎥]、η:粘度 [Pa s]
注記:回帰式使用時の注意点は、以下の通り:
   ・0℃以下の測定データは見つけられず、回帰データに含まない。
   ・≦30MPaの温度別の回帰データ数:0℃近辺=10点、25℃近辺=23点、
      50℃=17点、75℃=17点、99.85℃=1点、計68点。 100℃以上=0点。
   ・密度>500kg/㎥の温度別の回帰データ数:0℃近辺=10点、25℃近辺=12点、
      50℃近辺=8点、75℃=6点、99.85℃=2点、150.85℃=1点、計39点。
   ・上記より、以下の取扱いとなる:
    ・推算式1:
     推奨実験検証範囲:0℃~99.85℃ ⇒ 100℃以上は外挿、<30MPaG
     上記の主たるデータ密集域:0℃~75℃
    ・推算式2(高密度域):
     50MPa迄実測値有り、100MPaで整合性は確認 ⇒ 30~50MPaは実用可、
     50~80MPaは、外挿で、概算・設計検討には使用可。
     但し、高温高圧は実験データ不足なため、150ドいぞょうは注意が必要。

(2) 相互拡散係数

相互拡散係数図

図5. CO₂の相互拡散係数図

 超臨界CO₂とメタノール(MeOH)、イソプロパノール(IPA)の各々の相互拡散係数のイメージを右図に示します。圧力が低く、温度が高い方が拡散係数は大きくなり、多孔質体内の物資移動速度が早くなります。二相領域を横切らない高相互拡散係数である理想操作線を図示しています。
 アルコール乾燥の時の操作条件の決定時に非常に重要になります。詳細は、応用・適用分野の乾燥を参照下さい。

(3) 物質移動係数

 物質移動速度は、次の式で表わされます。

  K = kf × Ap × (Cd - Cci)

   K:物質移動係数 [kg/sec]、 kf:境膜物質移動係数 [m/s]、

   Ap:界表面積 [m2]、 Cc - Cci:界面での濃度差 [kg/m3]

 物質移動係数 kf は、これを溶質の拡散係数Deと流路の代表長さdとで無次元化したシャーウッド数Sh ≡ d・kc/Deで表現されます。レイノルズ数 Re に対する物質移動係数 kf の試算例を図6に示します。
物質移動係数

図6. CO₂の物質移動係数