むかし おとこありけり 京にありわびて あづまにいきけるに 伊勢 おはりのあはひの海づらを行くに 浪のいと白く立つを見て いとゞしく過ぎゆくかたの恋しきにうらやましくもかへる浪かな となむよめりける
むかし おとこ有けり 京や住み憂かりけん あづまの方に行きて住み所求むとて 友とする人ひとりふたりして行きけり 信濃の国 浅間の嶽にけぶりの立つを見て 信濃なる浅間の嶽にたつ煙をちこち人の見やはとがめぬ