和歌と俳句

浅間山

伊勢物語新古今集・羇旅
信濃なる浅間の嶽に立つけぶりをちこち人の見やはとがめぬ

拾遺集・恋 よみ人しらず
いつとてかわが恋やまむちはやふる浅間の嶽の煙たゆとも

俊頼
雲はれぬ浅間の嶽も秋来れば煙をわけて紅葉しにけり

金葉集・恋 俊頼
いつとなく恋にこがるる我が身より立つや浅間の煙なるらむ

西行
いつとなく思ひに燃ゆる我が身かな浅間のけぶりしめる世もなく

新古今集・羇旅 藤原雅経
いたづらに立つや浅間の夕けぶり里とひかぬるをちこちの山

定家
あさましや浅間の嶽に立つ烟たえぬおもひを知るひともなし

定家
胸のうちよしれかし今もくらべ見ばあさまの山はたえぬ煙を

良経
春はなほ浅間の嶽に空さえて曇るけぶりはゆきげなりけり

新勅撰集・雑歌 源有教朝臣
わするなよ あさまのたけの けぶりにも としへてきえぬ おもひありとは

夕立にやけ石寒し浅間山 素堂

浅間山煙の中の若葉かな 蕪村

野分して浅間の煙余所に立 蕪村

蚊声やほのぼの明し浅間山 一茶

短夜をあくせくけぶる浅間哉 一茶

なの花の中を浅間のけぶり哉 一茶

長閑さや浅間のけぶり昼の月 一茶

虚子
子規鳴く頃寒し浅間山


芒野ゆふりさけ見れば淺間嶺に没日に燒けて雲たち出でぬ


とことはに燃ゆる火の山淺間山天の遙に立てる雲かも


淺間嶺にたち騰る雲は天地に輝る日の宮の天の眞柱

元日や日のあたりをる浅間山 亞浪

夜は寒し浅間の怒り身にひびき 亞浪

左千夫
菅の根の長野に一夜湯のくしき浅間山辺に二夜寝にけり

牧水
火を噴けば浅間の山は樹を生まず茫として立つ青天地に

牧水
八月や浅間が嶽の山すそのその荒原にとこなつの咲く

牧水
秋晴のふもとをしろき雲ゆけり風の浅間の寂しくあるかな

牧水
雲去れば雲のあとよりうすうすと煙たちのぼる浅間わが越ゆ

牧水
雪消えてけふもけむりの立つならむ浅間よ春のそらのかたへに

左千夫
北信濃にとはに燃立つ浅間山秋の蒼ぞらにけぶりなづめり

鍬始浅間ケ嶽に雲かゝる 鬼城

浅間山春の名残の雲かかる 鬼城

青葉して浅間ケ嶽のくもりかな 鬼城

じやが芋咲いて浅間ケ嶽の曇かな 鬼城

烟るなり枯野のはての浅間山 鬼城

赤彦
落葉松の色づくおそし浅間山すでに真白く雪降る見れば

赤彦
夕晴れの空に風あれや著るく浅間の山の烟はくだる

赤彦
有明の月明らけし浅間山谿に烟の沈みたる見ゆ

赤彦
頂より烟をおろす浅間嶺の焼石原は青みたるかも

牧水
おほよそにながめ来にしか名を問へば浅間とぞいふかのとほき嶺を

牧水
寒き日の浅間の山の黒けぶり垂りうづまきて山の背に這ふ

牧水
噴きのぼる黒きけぶりの噴き絶えず浅間の山は真暗くし見ゆ

牧水
朝時雨いつしか晴れて墨いろの浅間の嶺につめる雪みゆ

晶子
しらじらと雲と水との起き出づる浅間の山の朝の渓かな

晶子
浅間山煙するなり人々の高き杖より二尺のうへに

晶子
水色の空も来りてひたるなり浅間の山の明星の湯に

晶子
人間の世は冷たしと浅間山峰の煙のとどまらぬかな

晶子
連山の雪にひかれてとどまればやがて浅間もうす雪ぞ降る

晶子
うす雪す上の浅間の湯の町を横に抱ける赤松の山

浅間ゆ富士へ春暁の流れ雲 亞浪

日も春の浅間根つづる桃櫻 亞浪

大浅間ひとり日当る山冬木 亞浪

晶子
浅間の森の木暗しここはまた夏の花草火投げて遊ぶ

牧水
浅間山にそれともわかぬ煙見えてかすかなるかも郭公の声は