和歌と俳句

新古今和歌集

羇旅

元明天皇御歌
飛ぶ鳥の飛鳥の里をおきていなば君があたりは見えずかもあらむ

聖武天皇御歌
いもにこひわかの松原見わたせば汐干のかたにたづ鳴き渡る

山上憶良
いざこどもはや日の本へ大伴の御津の濱松待ち恋ひぬらむ

人麿
あまざかる鄙のなが路を漕ぎくれば明石のとよりやまと島見ゆ

人麿
ささの葉はみ山もよそに乱るなりわれは妹思ふ別れ来ぬれば

大納言旅人
ここにありて筑紫やいづこ白雲の棚びく山の西にあるらし

よみ人しらず
朝霧に濡れにし衣ほさずしてひとりや君が山路越ゆらむ

在原業平朝臣
信濃なる浅間の嶽に立つけぶりをちこち人の見やはとがめぬ

在原業平朝臣
駿河なる宇都の山辺のうつつにも夢にも人に逢はぬなりけり

紀貫之
くさまくらゆふ風寒くなりにけり衣うつなる宿やからまし

紀貫之
白雲のたなびき渡るあしびきの山のかけはし今日や越えまし

壬生忠岑
東路のさやの中山さやかにも見えぬ雲居に世をやつくさむ

女御徽子女王
人をなほ恨みつべしや都鳥ありやとだにも問ふを聞かねば

菅原輔昭
まだ知らぬ故郷人は今日までに来むとたのめしわれを待つらむ

よみ人しらず
しなが鳥猪名野を行けば有馬山ゆふ霧立ちぬ宿はなくして

よみ人しらず
神風の伊勢の濱荻をりふせてたび寝やすらむあらき濱邊に

橘良利
故郷のたびねの夢に見えつるは恨みやすらむまたと訪はねば

藤原輔伊朝臣
立ちながら今宵は明けぬ薗原や伏屋といふもかひなかりけり

御形宣旨
都にて越路の空をながめつつ雲居といひしほどに来にけり

法橋「然
旅衣たちゆく浪路とほければいさ白雲のほども知られず