和歌と俳句

山上憶良

白波の浜松の木の手向けくさ幾代までにか年は経ぬらん

いざ子どもはやく日本へ大伴の御津の浜松待ち恋ひぬらむ

天翔りあり通ひつつ見らめども人こそ知らね松は知るらむ

憶良等は今は罷らむ子哭くらむそれその母も我を待つらむぞ

家に行きていかにか我がせむ枕付く妻屋寂しく思ほゆべしも

はしきよしかくのみからに慕ひ来し妹が心のすべもすべなさ

悔しかも斯く知らませばあをによし国内ことごと見せましものを

妹が見し楝の花は散りぬべし我が泣く涙いまだ干なくに

大野山霧たちわたる我が嘆く息嘯の風に霧たちわたる

ひさかたの天道は遠しなほなほに家に帰りて業を為まさに

銀も金も玉もなにせむにまされる宝子に如かめやも

常磐なすかくしもがもと思へども世の事理なれば留みかねつも

天地のともに久しく言ひ継げどとこの奇し御魂敷かしけらしも

春さればまづ咲くやどの梅の花ひとり見つつや春日暮らさむ

松浦県佐用姫の子が領巾振りし山の名のみや聞きつつ居らむ

足姫神の命の魚釣らすとみ立たしせりし石を誰れ見き

百日しも行かぬ松浦道今日行きて明日は来なむ何か障れる

天飛ぶや鳥にもがもや都まで送りまをして飛び帰るもの

ひともねのうらぶれ居るに竜田山御馬近づかば忘らしなむか

言ひつつも後こそ知らめとのしくも寂しけめやも君いまさずして

万代にいましたまひて天の下奏したまはね朝廷去らずて

天離る鄙に五年住まひつつ都のてぶり忘らえもけり

かくのみや息づき居らむあらたまの来経行く年の限り知らずて

我が主の御霊賜ひて春さらば奈良の都に召上げたまはね