置きて行かば妹はま愛し持ちて行く梓の弓の弓束にもがも
後れ居て恋ひば苦しも朝猟の君が弓にもならましものを
防人に立ちし朝明のかな門出に手離れ惜しみ泣きし子らはも
葦の葉に夕霧立ちて鴨が音の寒き夕し汝をば偲はむ
己妻を人の里に置きおほほしく見つつぞ来ぬるこの道の間
国造丁長下郡物部秋持
畏きや命被り明日ゆりや草が共寝む妹なしにして
主帳丁麁玉郡若倭部身麻呂
我がいたく恋ひらし飲む水に影さへ見えてよに忘られず
山名郡丈部真麻呂
時々の花は咲けども何すれぞ母とふ花の咲き出来ずけむ
山名郡丈部川相
遠江志留波の磯と尓閇の浦と合ひてしあらば言も通はむ
佐野郡丈部黒当
父母も花にもがもや草枕旅は行くとも捧ごて行かむ
佐野郡生玉部足国
父母が殿の後方のももよ草百代いでませ我が来るまで
長下郡物部古麻呂
我が妻も絵に描き取らむ暇もが旅行く我れは見つつ偲はむ
助丁丈部造人麻呂
大君の命畏み磯に触り海原渡る父母を置きて
足下郡上丁丹比郡国人
八十国は難波に集ひ船かざり我がせむ日ろを見も人もがも
鎌倉郡上丁丸子連多麻呂
難波津に装ひ装ひて今日の日や出でて罷らむ見る母なしに