和歌と俳句

万葉集防人歌

天平勝宝七歳二月十四日 常陸国部領防人使大目正七位上息長真人国島進歌

難波津に御船下ろ据ゑ八十楫貫き今は漕ぎぬと妹に告げこそ 茨城部若舎人部広足

防人に立たむ騒ぎに家の妹が業るべきことを言はず来ぬかも

おしてるや難波の津ゆり船装ひ我れ漕ぎぬと妹に告ぎこそ> 信太郡物部道足

常陸さし行かむ雁もが我が恋を記して付けて妹に知らせむ

我が面の忘れもしだは筑波嶺を振り放け見つつ妹は偲はね 茨城郡占部小竜

久慈川は幸くあり得て潮船にま楫しじ貫き我は帰り来む 久慈郡丸子部佐壮

筑波嶺のさ百合の花の夜床にも愛しけ妹ぞ昼も愛しけ 那賀郡上丁大舎人部千文

霰降り鹿島の神を祈りつつ皇御軍士に我れは来にしを

橘の下吹く風のかぐはしき筑波の山を恋ひずあらめかも 助丁占部広方

天平勝宝七歳二月十四日 下野国防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌

今日よりはかへり見なくて大君の醜の御楯と出で立つ我れは 火長今奉部与曽布

天地の神を祈りてさつ矢貫き筑紫の島をさして行く我れは 火長大田部荒耳

松の木の並みたる見れば家人の我れを見送ると立たりしもころ 火長物部真島

旅行きに行くと知らずて母父に言申さずて今ぞ悔しけ 寒川郡上丁川上臣老

母刀自も玉にもがもや載きてみづらの中に合へ巻かまくも 津守宿禰小黒栖

月日やは過ぐは行けども母父が玉の姿は忘れせなふも 都賀郡上丁中臣部足国

白波の寄そる浜辺に別れなばいともすべなみ八度袖振る 足利郡上丁大舎人部禰麻呂

難波津を漕ぎ出て見れば神さぶる生駒高嶺に雲ぞたなびく 梁田郡上丁大田部三成

国々の防人集ひ船乗りて別るを見ればいともすべなし 河内郡上丁神麻続部島麻呂

ふたほがみ悪しけ人なりあたゆまひ我がする時に防人にさす 那須郡上丁大伴部広成

摂津の国の海の渚に船装ひ立し出の時に母が目もがも 塩屋郡上丁丈部足人