木綿畳手に取り持ちてかくだにも我れは祈ひなむ君に逢はじかも
万葉集・巻第三
山守のありける知らにその山に標結ひ立てて結ひの恥しつ
万葉集・巻第三
橘をやどに植ゑ生ほし立ちて居て後に悔ゆとも験あらめやも
万葉集・巻第三
留めえぬ命にしあれば敷栲の家ゆは出でて雲隠りにき
佐保川の小石踏み渡りぬばたまの黒馬来る夜は年にもあらぬか
千鳥鳴く佐保の川瀬のさざれ波やむ時もなし我が恋ふらくは
来ぬと言ふも来ぬ時あるを来じと言ふを来むとは待たじ来じと言ふものを
千鳥鳴く佐保の川門の瀬を広み打橋渡す汝が来と思へば
佐保川の岸のつかさの柴な刈りそねありつつも春し来らば立ち隠るがね
黒髪に白髪交り老ゆるまでかかる恋にはいまだ逢はなくに
山菅の実ならぬことを我れに寄せ言はれし君は誰れとか寝らむ
出でて去なむ時しはあらむをことさらに妻恋しつつ立ちていぬべしや
相見ずは恋ひずあらましを妹を見てもとなかくのみ恋ひばいかにせむ
初めより長く言ひつつ頼めずはかかる思ひに逢はましものか
心には忘るる日なく思へども人の言こそ繁き君にあれ
夏葛の絶えぬ使のよどめれば事しもあるごと思ひつるかも