中村憲吉

山の根のけむり立つ家の棟のうへに孟宗の藪しだれかかれり

女竹垣のの根かたを揺ぶりて犬いでし後を花散りやまず

新酒桶を伏せしかたへに割る竹の竹紙かろく春風にとぶ

つばき垣にたてかけ乾せる畳にし花ころび落ちて前にたまれり

山路の青葉かげろふ岩の井に花つばき朱色にさびて映れり

桜島すその松山松まじり咲ける椿にうぐひす啼くも

白昼の湯に湯気のなかより窓あくればほの赤つばき覗きけるかも

唐湊山に日は入りぬれど海中は桜島嶺のあかあかと見ゆ

むらさきに煙を吐ける霧島は向か國のそらにふた峯浮けり

庭隅にゆふさり来れば眼のごとくボンタンの實ほのか光れり

甲突川に浸せる布のくれないのゆらぎゆらぎて春の日さすも

松みなが砂にうもれて稍ひくくわが眼のほどにつづく松原

空とほき星のあかりに砂原は路かげくろく雪夜のごとし

ほの白く闇に起きふす砂のうへ海のきはみは星の空かも

蒼杉のしげる木立のをちこちにほのぼのと明るく咲けり

夕日かげ寒けき崖を石のいろの上に物うごく小鳥にてあり

夕ちかき枯野をあよむ足のへの眼にさむき石の肌かも

石の面にふるるそよ風かれ草の影のゆらぎをうすく置くかも

夕暮るる枯野の沈み真悲しく心をなれと石によるかも

い群れゆく人のころものちらちらと色ににほへる街の上の

雨のいろに冴えひかりたる青葉路をつばめの腹のひるがへり見ゆ

青葉路のあめの湿りの砂のうへとわれとふみつつぞ行く

つばくらのちひさく啼けば葉にぬれて日かげのうすく洩れこぼれけり

青葉ふかく人にかくれて吾がいきを永世につけば悲しきろかも

夕べ野はかすかなる世にそこここと青葉の息のたち嘆くらむ

山中のしづけき町にの音の四方よそそぎてくれ入りにけり

和歌と俳句

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