和歌と俳句

笠郎女 かさのいらつめ

万葉集・巻第三
詫馬野に 生ふる紫草 衣に染め 未だ着ずして 色に出でにけり

万葉集・巻第三
陸奥の 真野の草原 遠けども 面影にして 見ゆといふものを

万葉集・巻第三
奥山の 岩本菅を 根深かめて 結びし心 忘れかねつも


我が形見見つつ偲はせあらたまの年の緒長く我れも思はむ

白鳥の飛羽山松の待ちつつぞ我が恋ひわたるこの月ごろを

衣手を打廻の里にある我れを知らにぞ人は待てど来ずける

あらたまの年の経ぬれば今しはとゆめよ我が背子我が名告らすな

我が思ひを人に知るれか玉櫛笥開きあけつと夢にし見ゆる

闇の夜に鳴くなる鶴の外のみに聞きつつかあらむ逢ふとはなしに

君に恋ひいたもすべなみ奈良山の小松が下に立ち歎くかも

我がやどの夕蔭草の白露の消ぬがにもとな思ほゆるかも

我が命の全けむ限り忘れめやいや日に異には思ひ増すとも

八百日行く濱の真砂も我が恋にあにまさらじか沖つ島守

うつせみの人目を繁み石橋の間近き君に恋ひわたるかも

恋にもぞ人は死にする水無瀬川下ゆ我れ痩す月に日に異に

朝霧のおほに相見し人故に命死ぬべく恋ひわたるかも

伊勢の海の磯もとどろに寄する波畏き人に恋ひわたるかも

心ゆも我は思はずき山川も隔たらなくにかく恋ひむとは

夕されば物思ひまさる見し人の言とふ姿面影にして

思ひにし死にするものにあらませば千たびぞ我れは死にかへらまし


剣大刀身に取り添ふと夢に見つ何の兆ぞも君に逢はむため

天地の神に理なくはこそ我が思ふ君に逢はず死にせめ

我れも思ふ人もな忘れ多奈和丹浦吹く風のやむ時なかれ

皆人を寝よとの鐘は打つなれど君をし思へば寐ねかてぬかも

名のりせば人知りぬべし名のらねば木の丸殿をいかですぎまし

相思はぬ人を思ふは大寺の餓鬼の後方に額づくごとし

心ゆも我は思はずきまたさらに我が故郷に帰り来むとは


水鳥の鴨の羽色の春山のおぼつかなくも思ほゆるかも


朝ごとに我が見るやどのなでしこの花にも君はありこせぬかも