みんなみの嶺岡山の焼くる火のこよひも赤く見えにけるかも
夕食終へて外に出てみればあかあかと山焼の火のひろがりにけり
夕山の焼くるあかりに笹の葉の影はうつれり白き障子に
山焼の火かげ明りてあたたかに曇るこの夜をわがひとり寝む
外風呂に湯あみし居れば月読は山の端いでてわれを照らせり
このゆふべ野分のかぜの吹き立ちて向つ草山草ひかる見ゆ
春浅み接骨木の芽のふくらみてさ青き見ればものの恋ひしも
雨あがり夕日あかるき新湯殿ゆげ立つそとに梨のはな咲く
にひばりの畑のそら豆はな咲きて楢山がくりうぐひす鳴くも
砂畑のしき藁のうへにうすみどり西瓜の蔓の延びのすがしさ
朝な朝な牛を牽き飼ふみちのべの小草の露の寒きこのごろ
しら露のしとど置くなべ秋の野の草の葉厚く肥えにけるかも
山行くとくぬぎの若葉萩若葉扱きつつもとな人わすらえず
山原のほほけ茅花のうちなびき乱るるが中にころぶしにけり
春ふかみ水を張りたる小山田のうすら光りて日はかたむきぬ
都べにいつかも出でむ春ふかみ今日の夕日の大きく赤しも
この庭の槐わか葉のにひみどりにほへる蔭にわれ立ちにけり
よき人にともなはれつつ亀井戸の藤なみの花わが見つるかも
わが家はいまだは見えねいちじろく裏の椎森若葉せる見ゆ
ふるさとに帰れるその夜わが庭の椎の若葉に月おし照れり
月夜よみ藁をたばねてひとり居る秋の野面のこほろぎのこゑ
露しろく夕月てりて新藁のにほひひややかにこほろぎ鳴くも
天地に蟲の音すみて五百代の山田もさやに月押し照れり
蟲の音はいやすみにつつ藁束ね手もと小暗く月かたぶきぬ
馬の背山山の裾べを霜けぶりさ夜くだちつつこほろぎのこゑ