和歌と俳句

会津八一

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かすが野に押してるつきのほがらかにあきのゆふべとなりにけるかも

かすがののみくさ折りしきふすしかのつのさへさやにてるつくよかも

うちふしてものもふ草のまくらべをあしたのしかのむれわたりつつ

つの刈るとしか追ふ人はおほてらのむねふきやぶるかぜにかもにる

こがくれてあらそふらしきさをしかのつののひびきに夜はくだちつつ

うらみわびたちあかしたるさをしかのもゆるまなこにあきのかぜふく

かすが野にふれるしらゆきあすのごとけぬべくわれはいにしへおもほゆ

もりかげのふぢのふる根によるしかのねむりしつけきはるの雪かな

はるきぬといまかもろびとゆきかへりほとけのにはに花さくらしも

わぎもこがきぬかけやなぎみまくほりいけをめぐりぬかささしながら

くわんおんの背にそふ蘆のひともとのあさきみどりにはるたつらしも

ほほゑみてうつつごころにありたたす百済ぼとけにしくものぞなき

つといればあしたのかべにたちならぶかの招堤のだいぼさつたち

はつなつのかぜとなりぬとみほとけはをゆびのうれにほのしらすらし

こんでいのほとけうすれし紺綾のだいまんだらに虻のはねうつ

たび人の目にいたきまでみどりなる築地のひまの菜畑のいろ

香薬師わがをろがむとのきひくきひるのちまたをなづみゆくかも

たび人にひらく御堂のしとみより迷企羅が太刀にあさひさしたり

みほとけのうつらまなこにいにしへのやまとくにはらかすみてあるらし

ちかづきて仰ぎみれどもみほとけのみそなはすともあらぬさびしさ

あきはぎは袖にはすらじふるさとにゆきてしめさむ妹もあらなくに

かきの實をになひてくだるむらびとにいくたびあひしたきさかのみち

まめがきをあまたもとめてひとつづつくひもてゆきしたきさかのみち

缺けおちていはのしたなるくさむらのつちとなりけむほとけかなしも

たきさかのかしのもみぢにきぬかけてきよきかはせにあそぶ子等はも