和歌と俳句

会津八一

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しぐれふる野すゑのむらのこのまよりみでてうれし薬師寺の塔

くさにねてあふげばのきのあおそらに雀かつとぶやくし寺の塔

水煙のあまつおとめがころもでのひまにもすめる秋のそらかな

あらしふくふるきみやこのなかぞらのいりひの雲にもゆる塔かな

いかるがのさとのおとめはよもすがらきぬはたおれりあきちかみかも

うまやどのみこのまつりもちかづきぬ松みどりなるいかるがのさと

いかるがのさとびとこぞりいにしへによみがへるべきはるはきむかふ

うまやどのみこのみことはいつのよのいかなるひとかあふがざらめや

みとらしのあづさのまゆみつるはけてひきてかへらぬいにしへあはれ

おしひらくおもきとびらのあひだよりはやみえたまふみほとけのかほ

たちいでてとどろととざす金堂のとびらのおとにくるるけふかな

ちとせあまりみたび周れるももとせをひとひのごとくたてるこの塔

あめつちにわれひとりゐてたつごときこのさびしさをきみはほほえむ

あまたみしてらにはあれどあきの日にもゆるいらかはけふみつるかも

うつしよのかたみにせむといたつきのみをうながしてみにこしわれは

ひとりきてめぐる御堂のかべのゑのほとけのくにもあれにけるかも

おほてらのかべのふるゑにうすれたるほとけのまなこわれをみまもる

うすれゆくかべゑのほとけもろともにわがたまのをのたえぬともよし

ほろびゆくちとせののちにこのてらのいづれのほとけありたたすらむ

みほとけのあごとひぢとにあまでらのあさのひかりのともしきろかも

くわんおんのしろきひたひに瓔珞のかげうごかしてかぜのわたるみゆ

みとらしのはちすにのこるあせのいろのみどりなふきそこがらしのかぜ

あまつかぜ吹きのすさみにふたがみのをさへみねさへかつらぎのくも

ふたがみのてらのきざはし秋たけてやまのしづくにぬれぬ日ぞなき

ふたがみのすその竹むらひるがへしかぜふきいでぬ塔のひさしに