神さぶる岩根こごしきみ吉野の水分山を見れば悲しも
皆人の恋ふるみ吉野今日見ればうべも恋ひけり山川清み
夢のわだ言にしありけりうつつにも見て来るものを思ひし思へば
すめろきの神の宮人ところづらいやとこしくに我れかへり見む
吉野川巌と栢と常磐なす我れは通はむ万代までに
宇治川は淀瀬なからし網代人舟呼ばふ声をちこち聞こゆ
宇治川に生ふる菅藻を川早み採らず来にけりつとにせましを
宇治人の譬への網代我れならば今は寄らまし木屑来ずとも
宇治川を舟渡せをと呼ばへども聞こえずあらし楫の音もぜず
ちはや人宇治川波を清みかも旅行く人の立ちかてにする
しなが鳥猪名野を来れば有馬山夕霧立ちぬ宿りはなくて
武庫川の水脈を早みか赤駒の足掻くたぎちに濡れにけるかも
命をし幸くよけむと石走る垂水の水をむすびて飲みつ
さ夜更けて堀江漕ぐなる松浦舟楫の音高し水脈早みかも
悔しくも満ちぬる潮か住吉の岸の浦廻ゆ行かましものを
妹がため貝を拾ふと茅渟の海に濡れにし袖は干せど乾かず
めづらしき人を我家に住吉の岸の埴生を見むよしもがも
暇あらば拾ひに行かむ住吉の岸に寄るよいふ恋忘れ貝
馬並めて今日我が見つる住吉の岸の埴生を万代に見む
住吉に行くといふ道に昨日見し恋忘れ貝言にしありけり
住吉の岸に家もが沖に辺に寄する白波見つつ偲はむ
大伴の御津の浜辺をうちさらし寄せ来る波のゆくへ知らずも
楫の音ぞほのかにすなる海人娘子沖つ藻刈りに舟出すらしも
住吉の名児の浜辺に馬立てて玉拾ひしく常忘らえず
雨は降る仮廬は作るいつの間に吾児の潮干に玉は拾はむ