和歌と俳句

古集

天霧らひひかた吹くらし水茎の岡の港に波立ちわたる

大海の波は畏ししかれども神を斎ひて舟出せばいかに

娘子らが織る機の上を真櫛もち掻上げ栲島波の間ゆ見ゆ

潮早み磯廻に居れば潜きする海人とや見らむ旅行く我れを

波高しいかに楫取水鳥の浮寝やすべきなほや漕ぐべき

夢のみに継ぎて見えつつ高島の磯越す波のしくしく思ほゆ

静けくも岸には波は寄せけるかこれの屋通し聞きつつ居れば

高島の安曇白波は騒けども我れは家思ふ廬り悲しみ

大海の磯もと揺り立つ波の寄せむと思へる濱の清けく

玉櫛笥みもろと山を行きしかばおもしろくしていにしへ思ほゆ

ぬばたまの黒髪山を朝越えて山下露に濡れにけるかも

あしひきの山行き暮らしやど借らば妹立ち待ちてやど貸さむかも

見わたせば近き里廻をた廻り今ぞ我が来る領巾振りし野に

娘子らが放りの髪を由布の山雲なたなびき家のあたり見む

志賀の海人の釣舟の網堪へなくも心に思ひて出でて来にけり

志賀の海人の塩焼く煙風をいたみ立ちは上らず山にたなびく