和歌と俳句

会津八一

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たまたまにやまをしふめばおのづからやまのいぶきのあやにかなしも

やまつつじうつろうなべにおにつつじもゆるたをりにのぼりいでにけり

このをかのうめのふるえだのびはててなつにかむかふきるひとなしに

みはるかすのらのいづくにすむはとのとほきつづみとききのよろしき

とねいまだうらわかからしあしびきのやまかたづきてしろむをみれば

たなぐもをそごひになしてあまそそるあかぎのねろはまなかひにたつ

むらぎものこころはるけしまなかひになつづくやまのそきたつをみて

あかぎねのをちかたとほきやまなみにふたらさやけくくものよるみゆ

かみつけのくにのかぎりとたつくものひまにもしろきほたかねのゆき

かみつけのそらのみなかにかがよへるくもはしづけしいにしへもかく

いたりつくやまのみづうみおほならのひろはゆたけくかげろへるかも

ならのははいまをはるびとわがたてるつかのあひだものびやまざらむ

はるやまのならのわかばになくせみのくぐもりてのみわがよはをへむ

おほならのかなしさきそうみづうみのきしのいはほにつるはなにうを

しろがれにかれたつかやのなかにしてつつじはもゆるみづうみのはてに

きしゆけばあさのまさごにおほきなるこひしにてありやまのみづうみ

しよくだうのあしたのまどにひとむらのあけのかまづかぬれたてるかも

おちあひのしづけきあさをかまづかのしたてるまどにものくらひをり

かまづかのあけのたりはのしげりはをいはひかくろひいなぐすむみゆ

かまづかはたけにあまれりわがまきてきのふのごとくおもほゆるまに

すゐせんをほりたるあとにかまづかをわがまきしひはとほからなくに

むらさきはあけにもゆるをきにもゆるみどりはさびしかまづかのはな

かまづかのあけのひとむらゑがかむとわれたちむかふふでもゆららに

かまづかはあけにもゆるをひたすらにすみもてかきつわがこころから

すみもちてかけるかまづかうつせみのわがひたひがみにるといはずやも

かすがののをばなかたまけおくつゆのおもきこころをわがいかにせむ

雲ふかみいまかいざよふあまつひのひかりこもらふかつらぎのそら