和歌と俳句

会津八一

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かみつけのしら根の谷にきえのこるゆきふみわけてつみしたかむな

ふねはつるあさのうらわにうちむれてしろきあひるのなくぞかなしき

帆はしらのなかよりみゆるいそやまのてらのもみぢばうつろひにけり

わがすてしバナナのかはをながしゆくしほのうねりをしばしながむる

みやじまとひとのゆびさすともし火をひだりにみつつふねはすぎゆく

うなばらをわがこえくればあけぬりのしまのやしろにふれるしらゆき

いかしゆのあふるるなかにもろあしをゆたけくのべてものおもひもなし

はまの湯のにはのこのまにいさりびのかずもしられずみゆるこのごろ

たちばなのこぬれれたわわにふくかぜのやむときもなくいにしへおもほゆ

わがこころつくしのはまたちばなのいろつくまでにあきふけにけり

うなばらにむかふすやへのしらくもをみやこのかたにゆめはぬひゆく

をちこちの島のやしろのもろがみにわがうたよせよ沖つしらなみ

あしびきのやまくに川のかはぎりにしぬぬにぬれてわがひとりねし

やまくにのかはのくまわにたつきりのわれにこふれかゆめにみえつる

よひにきてあしたながむるむかつをのこぬれしづかにしぐれふるなり

ひとみなのよしとふもみぢちりはててしぐるる山をひとりみるかな

しぐれふる山をしみればこころさへぬれとほるべくおもほゆるかも

あさましくおいゆくやまのいはかどをつつみもあへずこのはちるなり

むかつをの杉のほこふでぬきもちてちひろのいはにうたかかましを

しぐれふるやまくにかはのたにまよりゆふかたまけてわれひとりゆく

やまくにの川のせさらずたつきりのたちかへりみつつみむよしもがも

あきさらばやまくにかはのもみぢばのいろにかいでむわれまちがてに

むかし人こころゆくらにものかきしふすまにたてばなみだながるる

なほざりにゑがきし蘭のふでにみるたたみのあとのなつかしきかな

いにしへの人にわれあれやもろともにものいはましをものかかましを