和歌と俳句

会津八一

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みはるかすふるきみやこのののはてにひとありてうつくはのかがやき

いくむらのみささぎまろくつらなれるふるきみやこのきたやまのそら

あるときはまなこしひたるたうそうにものたまはりてねぎらはせけむ

ひさかたのつきひはるけきおほみやのかれたるしばにものもひやまず

いくたびをわれまたきたりこのをかのみくさのうへにものおもはめや

をろがみてきのふのごとくかへりこしみほとけすでになしといはずやも

みほとけはいかなるいこのをのこらがやどにかたたすゆめのごとくに

みほとけはいまさずなりてふるあめにわがいしぶみのぬれつつかあらむ

いでましてふたたびかへりいませりしみてらのかどにわれたちまたむ

かどのへのたかまどやまをかれやまとそうはなげかむこゑのかぎりを

うつせみのちからをつくしわたつみのそらのみなかにかむさりにけり

たぐひなきくにつみたまののぼりくとやすのかはらにかむつどひせむ

なにびとかけふのはふりにぬかづきてきみがみたまになかざらめやも

さすたけのきみをつつみてふるさとのやまはしげらむのちのよのために

みんなみにあすはゆかむとひとりきてしづかにたてりゆふづきのもとに

わがうたをたづさへゆきてたたかひのひまによむとふあらきはまべに

くりやべはこよひもともしひとつなるりんごをさきてきみとわかれむ

ちはやぶるかみのみやゐにたらちねとぬかづくみればふるさとをもほゆ

うつしみはいづくのはてにくさむさむかすがののべをおもひでにして

かすがののこぬれのもみぢもえいでよまたかへらじとひとのゆくひを

かすがやましみたつすぎのながぞらにこゑはるかなるとびのひとむら

うかびたつたふのもこしのしろかべにあさのひさしてあきはれにけり

みほとけのひかりすがしきむねのへにかげつぶらなるたまのみすまる

いにしへのうたのいしぶみおしなでてかなしきまでにもののこほしき

りつゐんのそうさへいでてこのごろははたつくるとふそのにはのへに

せうだいのけふのときこそうれしけれそうのつくれるいものあつもの

ゆくりなきもののおもひにかかげたるうでさへそらにわすれたつらし

けふもまたいくらりたちてなげきけむあじゆらがまゆのあさきひかげに