和歌と俳句

高円山

万葉集巻二
高円の野辺の秋萩いたづらに咲きか散るらむ見る人なしに

万葉集巻二
高円の野辺の秋萩な散りそね君が形見に見つつ偲はむ

大伴坂上郎女
猟高の高円山を高みかも出で来る月の遅く照るらむ

大伴坂上郎女
ますらをの高円山に迫めたれば里に下り来るむざさびぞこれ

藤原八束
春日野にしぐれ降る見ゆ明日よりは黄葉かざさむ高円の山

家持
高円の野辺の秋萩このころの暁露に咲きにけむかも

家持
高円の野辺のかほ花面影に見えつつ妹は忘れかねつも

作者不詳
雉鳴く高円の辺に桜花散りて流らふ見む人もがも

大伴池主
高円の尾花吹き越す秋風に紐解き開けな直ならずとも

中臣清麻呂
天雲に雁ぞ鳴くなる高円の萩の下葉はもみちあへむかも

家持
をみなへし秋萩しのぎさを鹿の露分け鳴かむ高円の野ぞ

家持
宮人の袖付け衣秋萩ににほひよろしき高円の宮

家持
高円の宮の裾廻の野づかさに今さけるらむをみなへしはも

家持
高円の秋野の上の朝霧に妻呼ぶを鹿出で立つらむか

家持
高円の野の上の宮は荒れにけり立たしし君の御代遠そけば


師頼
いそのかみ ふるきみやこに 春来れば かすみたなびく 高円の山

新古今集・秋 顕昭法師
萩が花まそでにかけて高圓のをのへの宮に領巾ふるやたれ

新古今集・秋 基俊
高圓の野路のしの原末さわぎそそや木がらし今日吹きぬなり

新古今集・秋 堀河院御歌
しきしまや高圓山の雲間よりひかりさしそふゆみはりの月

教長
しらまゆみ はりてかけたる あかつきは 程なくぞいる 高円の山

寂蓮
高円の をのへの里に 雪深し なほふりゆかむ あとをこそ思へ

鴨長明
嵐ふく ありあけの空に 雲きえて すみのぼる 高円の山

良経
ふるきあとぞ霞みはてぬる高円の尾上の宮の春のあけぼの

良経
高円の尾上の宮の秋萩をたれきて見よと松虫のこゑ

実朝
高円の尾上のきぎすあさなあさな妻に恋ひつつ鳴く音かなしも

実朝
夕されば衣手すずし高圓のおのへの宮の秋のはつ風

実朝
雁鳴て吹風寒みたかまとの野辺のあさぢは色づきにけり

続後撰集・恋建保二年、秋 後鳥羽院御製
しきしまや 高円山の 秋風に 雲なき峰を いづる月かげ

定家
大空にかかれる月も高まとの野邊にくまなきくさの上のつゆ

続後撰集・恋後鳥羽院御製
わが恋は 高円山の 雲間より よそにも月の 影をまつかな

続後撰集・春 従三位行能
いたづらに 花や散るらむ 高円の 尾上の宮の 春の夕暮


八一
ともとわがおりたつてらのにはのへにせまりてあおきたかまどのやま

八一
かどのへのたかまどやまをかれやまとそうはなげかむこゑのかぎりを

林火
瑞穂掛く高円山の日に浴し