和歌と俳句

竜田川 立田川

奈良県生駒郡を流れる生駒川の下流。

古今集・秋よみ人知らず
竜田河もみぢ乱れてながるめりわたらば錦中やたえなむ

古今集・秋よみ人知らず
竜田川もみぢばながる神なびのみむろの山に時雨ふるらし

古今集・冬よみ人しらず
竜田川錦おりかく 神な月しぐれの雨をたてぬきにして

業平
ちはやぶる神世もきかずたつた川から紅に水くくるとは

深養父
神なびの山をすぎ行く秋なればたつた川にぞぬさはたむくる

是則
もみぢばの流れざりせばたつた川水の秋をばたれか知らまし

貫之
年ごとにもみぢばながす竜田川みなとや秋のとまりなるらん

後撰集・秋 よみ人しらず
たつた河色紅になりにけり山の紅葉ぞ今は散るらし

後撰集・秋 貫之
竜田河秋にしなれば山近み流るゝ水も紅葉しにけり

後撰集・秋 よみ人しらず
たつた河秋は水なくあせななんあかぬ紅葉の流るれば惜し

好忠
夏衣龍田川原の柳かげすずみに来つつ馴らすころかな

金葉集・冬 俊頼
竜田川しがらみかけてかみなびの三室の山の紅葉をぞ見る

金葉集・冬 中納言資仲
紅葉ちる宿はあきぎり晴れせねば立田の河のながれをぞ見る

頼政
いまはよに 山の木の葉も あらじかし 立田の川の 色づく見れば

頼政
立田川 吹き越す風を 待ちてこそ 濡れぬ紅葉を 袖にうけつれ

俊恵
波かくる たつた川原の ふし こずゑは底の 玉藻なりけり

俊恵
して たつた川原の 柳かげ 帰るもの憂き 夕まぐれかな

俊成
いつしかとのしるしに立田川紅葉とぢまぜうす氷せり

西行
立田河岸の籬を見わたせば井堰の波にまがふ卯の花

寂蓮
立田川 岸の青柳 ゆく水に 数かくものは しづ枝なりけり

定家
涙やはもみぢ葉ながすたつた川たぎるとすればかはる色かな

定家
契らずよこころに秋はたつた川わたるもみぢの中たえむとは

定家
色はみな空しきものをたつた川もみぢ流るるあきもひととき

俊成
秋暮れて紅葉ながるる竜田川はやく見しよや恋しかるらむ

定家
夕暮は やまかぜすずし たつたがは みどりのかげを くぐるしらなみ

俊成
もみぢ葉に昔をとへば立田川をりしも空もかきしぐれけり

式子内親王
神無月三室の山の山颪に紅くくる龍田川かな

良経
立田川ちらぬ紅葉の影みえてくれなゐ越ゆる瀬々の白波

定家
夏衣たつた河原をきて見ればしのにおりはへ浪ぞほしける

俊成
あやなしや恋すてふ名は立田川袖をぞくぐるくれなゐのなみ

定家
龍田川神代もきかでふりにけりからくれなゐの瀬々のうき波

良経
これもまた神よはしらず立田川月のこほりに水くぐるなり

実朝
岩くぐる水にや秋の立田川河風すずし夏のゆふぐれ

実朝
みむろ山もみぢちるらしかみなづき立田の川に錦をりかく

定家
たつた川 いはねのつつじ かげ見えて なほ水くくる 春のくれなゐ

新勅撰集・秋 関白左大臣教実
たつたがは みむろのやまの ちかければ もみぢをなみに そめぬひぞなき

新勅撰集・秋 参議雅経
あきはけふ くれなゐくくる たつた河 ゆくせのなみも いろかはるらん