和歌と俳句

藤原俊成

あかつきは鐘のこゑより鳥のこゑ千鳥ともよひ鴫のはねがき

うきなから久しくぞよを過ぎにけるあはれやかけし住吉の松

まどに植ゑてわれかともと見る呉竹は袖にかはらず露もおきけり

難波潟むれたるたづのうはげこそ千歳もきえぬ霜にはありけれ

落ちたぎつ瀧のうちはの岩の苔わが袖の上といづれ露けし

あしひきの山のうちにも富士の山いかに契りて煙たつらむ

秋暮れて紅葉ながるる竜田川はやく見しよや恋しかるらむ

秋風に野邊のけしきを見るばかり身にしむことは猶なかりけり

世とともに過ぐる月日を書きとめてもじのせきとはいふにやあるらむ

あはれなり長柄は跡も朽ちにしを大江の橋の絶えせざるらむ

波の上にはるかに浮かぶ葦鴨はとりしまかよふ舟にやあるらむ

うらなみせ立ち別るとも住吉の松をたのむぞ頼みなるべき

都路は幾日もなきをもしほぐさ敷津の波は袖にかけけり

つま木こる山路ばかりを踏み分けて蓬が門は跡たえにけり

稲葉ふく風もことにぞ身に寒き生田の里の秋の夕暮

ふりにけり難波堀江の澪標いづれの年のしるしなるらむ

見てもまた思へば夢ぞあはれなる憂き世ばかりの迷ひと思へば

何か世をつねならずとは思ふべき長柄の橋も名やは朽ちたる

和歌の浦の道を捨てぬ神なればあはれをかけよ住の江の波

四方の海ものどかなれとぞ住吉の津守の浦にあとをたれけむ