和歌と俳句

源俊頼

庭もせに ひきつらなれる もろ人の たちゐるけふや 千代の初春

いつしかと けさは氷も 解けにけり いかでいはまに 春をしるらむ

千載集
春のくる あしたの原を 見わたせば 霞もけふぞ 立ちはじめける

身ひとつは 越しつともなき 年なれど 老いの姿は 先にたちにけり

いつしかと すゑの松山 かすめるは 浪ともにや 春もこゆらむ

我をのみ 世にももちひの かがみ草 さきさかえたる 影ぞうかべる

ます鏡 おもふさまにて 映りけむ 君がみかげの 名残をぞ見る

さほ山に かすみの衣 かけてけり なにをか四方の 空はきるらん

千載集
けぶりかと 室の八島を 見しほどに やがても空の かすみぬるかな

詞花集・雑
波たてる 松のしづ枝を くもてにて かすみわたれる 天の橋立

春霞 たなびく浦は 満つ潮に 磯こす波の 音のみぞする

いもせ山 ほそたに川を 帯にして かすみのころも けさやきるらん

吉野山 みねのこづゑは 高けれど 今朝はかすみに うづもれにけり

いつしかと かすみにけりな 塩釜の 浦ゆくふねの 見えまがふまで

春来ぬと 聞きだにあへぬ 明け暮れに 霞にむせぶ 眞野の萩原

おとは山 みねのかすみは たなびけど 松のこづゑは かはらざりけり

不破の関 あしみを駒に おしへゆく こゑばかりこそ かすまざりけれ

都へと 急ぎて春は 過ぎにしを いかなる霞 たちとまるらむ

花さかぬ み山隠れは 霞めども 數ならぬ身の はるかとぞみる

春たてば 初子の忌に 旅ゐして 袖の下なる 小松をぞ引く