きのふまで ゆきふるとしと 見しままに けさは氷を 春風ぞ吹く
春日野の ねのひの小松 ひきつれて 神にぞ祈る 君が千歳を
三輪の山 たづねぞゆかむ 春霞 しるしの杉は 立ちな隠しそ
はなさかぬ ときはのやまの やま人に 春をしらする うぐひすのこゑ
きえのこる 雪間をわけて 春日野に つめどたまらぬ 若菜をぞ摘む
春風に たにのこほりは とくれども 消え残りたる みねの白雪
梅の花 たをるたもとの しるきまで けさふく風に 匂ふなるかな
青柳の 糸はみどりの 髪なれや 乱れてけづる きさらぎの風
飛火野に いま萌えいづる 早蕨の いつ折るばかり ならむとすらむ
花盛り 桜かざさぬ 人ぞなき もののこころを しるもしらぬも
岩の上の 苔だにたへぬ 春雨に 野辺の草葉の いかで萌ゆらむ
春駒の いばゆる音ぞ きこゆなる 水の真菰も つのぐみぬらし
雁がねは かへるそらなく おもふらむ 見れども飽かぬ 花を見捨てて
小夜更けて 岩瀬の森の よぶこ鳥 山彦のみぞ こたふべらなる
しらつゆの おくて刈るてふ 小山田に なに苗代を 急ぐなるらむ
おいぬれば はなのみやこに ありわびて 山にすみれを 摘まむとぞおもふ
池水を 隔てて咲ける かきつばた 波を越さじと 思ふなりけり
柴の庵の 西の高嶺の 藤の花 あけくれ願ふ 雲かとぞみる
山吹の 花し咲かずば なにゆゑに うらやまれまし ゐでの里人
もろともに われもいなまし 春のゆく こよひの道を しれる身ならば