後拾遺集・夏
みわたせばなみのしがらみかけてけり卯の花さける玉川の里
後拾遺集・夏
五月雨はみづのみまきのまこも草かりほすひまもあらじとぞおもふ
後拾遺集・夏
さみだれの空なつかしく匂ふかな花たちばなに風や吹くらむ
後拾遺集・秋
秋の田になみよる稲は山川の水ひきかけし早苗なりけり
後拾遺集・冬
なにはがたあさみつしほにたつ千鳥浦づたひする声きこゆなり
後拾遺集・冬
都にも初雪ふれば小野山のまきの炭がま焼きまさるらん
後拾遺集・別
たびたびのちよをはるかに君やへむ末の松よりいきの松まて
後拾遺集・別
いとはしきわが命さへゆく人のかへらむまでとをしくなりぬる
後拾遺集・哀傷
時しもあれ春のなかばにあやまたぬよはの煙はうたがひもなし
後拾遺集・哀傷
とはばやと思ひやるだに露けきをいかにぞ君が袖はくちぬや
後拾遺集・恋
あふことのなきよりかねてつらければさてもあらましぬるる袖かな
後拾遺集・恋
つきもせず恋に涙をながすかなこやななくりの出湯なるらん
後拾遺集・恋
頼むるを頼むべきにはあらねども待つとはなくて待たれもやせん
後拾遺集・恋
眺めつつ事ありがほに暮しても必ず夢にみえばこそあらめ
後拾遺集・恋
もろともにいつかとくべきあふことのかた結びなる夜半の下紐
後拾遺集・恋
きのふけふ歎くばかりの心地せば明日に我が身や逢はじとすらん
後拾遺集・恋
住吉の岸ならねども人知れぬ心のうちの松ぞ侘しき
後拾遺集・恋
来じとだにいはで絶えなば憂かりける人のまことをいかでしらまし
後拾遺集・恋
ただ袖に君かさぬらん唐衣夜な夜なわれにかたしかせつつ
後拾遺集・恋
なかたゆるかづらき山の岩ばしはふみみることもかたくぞありける