和歌と俳句

大江匡房

詞花集・春
こほりゐし 志賀の唐崎 うちとけて さざ波よする 春風ぞふく

金葉集・春
春霞 立ちかくせども 姫小松 ひくまの野邊に 我は来にけり

千載集・春
わぎもこが 袖ふる山も 春来てぞ のころも たちわたりける

谷ふかみ ききふるすてふ 山里に なほめづらしき うぐひすのこゑ

たはるてふ 若菜はたちぬ おなじくは 春をつみても 野辺にこそへめ

千載集・春
道たゆと いとひしものを 山里に きゆるはをしき こぞの雪かな

千載集・春
にほひても 分かばぞ分かむ 梅の花 それとも見えぬ 春の夜の月

さほひめの うちたれ髪の たまやなぎ ただ春風の けづるなりけり

とやまには 年明けにけり いはのうへの たるひもとけて 萌ゆる早蕨

千載集・春
山ざくら 千々に心の くだくるは 散る花ごとに そふにやあるらむ

千載集・春
よも山に 木の芽はるさめ 降りぬれば かぞいろはとや 花のたのまむ

とりつなぐ 人しなければ 春駒の 野辺の澤水 かげもとどめず

こしぢには 誰がことづてし たまづさを くもゐの雁の もて帰るらむ

千載集・春
思ふこと 千枝にやしげき よぶこ鳥 信太の杜の かたに鳴くなり

苗代の 山田の小田に しめはへて まかする水や 雪解なるらむ

箱根山 うすむらさきの つぼすみれ ふたしほみしほ たれか染めけむ

風ふけば いはかき沼の かきつばた なみのをるにぞ まかせたりける

みぎはより 底までにほふ 藤の花 いかなる雲の かげか見ゆらむ

千載集・春
春ふかみ 井手の河水 かげそはば いくへか見えむ 山吹の花

千載集・春
つねよりも けふの暮るるを 惜しむかな いまいくたびの 春と知らねば