千載集・春
梅が枝の花にこづたふうぐひすの声さへにほふ春のあけぼの
千載集・夏
ほととぎすなほ初声を信夫山夕ゐる雲のそこに鳴くなり
千載集・秋
浅茅生の露けくもあるか秋来ぬと目にはさやかに見えけるものを
千載集・秋
秋の野の千草の色にうつろへば花ぞかへりて露を染めける
千載集・冬
浪かけば汀の雪も消えなまし心ありてもこほる池かな
千載集・羈旅
よしさらば磯の苫屋に旅寝せん浪かけずとてぬれぬ袖かは
千載集・雑歌
跡たえて世をのがるべき道なれや岩さへ苔の衣きてけり
千載集・雑歌
思ひいでのあらば心もとまりなむいとひやすきは憂き世なりけり
千載集・雑歌
いはそそぐ水よりほかに音せねば心ひとつをすましてぞ聞く
新古今集・秋
身にかへていざさは秋を惜しみ見むさらでももろき露のいのちを
新古今集・雑歌
風そよぐしののをざさのかりのよを思ひ寝覚めに露ぞこぼるる
新古今集・雑歌
ながらへて世に住むかひはなけれども憂きにかへたる命なりけり
新勅撰集・雑歌
むかしおもふ なみだのそこに やどしてぞ 月をばそでの ものとしりぬる
新勅撰集・雑歌
ふじのねは とはでもそらに しられけり くもよりうへに みゆるしらゆき
続後撰集・雑歌
なにごとを まつとはなしに ながらへて おしからぬ身の 年をふるかな