和歌と俳句

行尊

金葉集・春
よそにては惜しみに来つる山櫻折らではえこそ帰るまじけれ

金葉集・雑歌小倉百人一首
もろともに哀れと思へ山櫻はなよりほかに知る人もなし

金葉集・雑歌
早き瀬に立たぬばかりぞ水車われも憂き世にめぐるとを知れ

金葉集・雑歌
見し人はひとり我が身にそはねどもおくれぬものは涙なりけり

金葉集・雑歌
心こそ世をば捨てしか幻のすがたも人に忘られにけり

金葉集・雑歌
草木まで嘆きけりとも見ゆるかな松さへ藤の衣着てけり

金葉集・雑歌
いさぎよき空のけしきを頼むかな我まどはすな秋の夜の月

詞花集・恋
うぐひすは花のみやこも旅なれば谷の古巣を忘れやはする

詞花集・雑歌
この世には またもあふまじ 梅の花 ちりぢりならむ ことぞかなしき

千載集・離別
帰りこんほどをばいつといひおかじ定めなき身は人だのめなり

新古今集・春
木の下のすみかも今は荒れぬべし春し暮れなば誰か訪ひこむ

新古今集・離別
思へども定めなき世のはかなさにいつを待てともえこそ頼めね

新古今集・羈旅
わが如くわれを尋ねばあまをぶね人もなぎさのあとと答えよ

新古今集・雑歌
春来れば袖の氷も解けにけり漏り来る月のやどるばかりに

新古今集・雑歌
わくらばになどかは人のとはざらむ音無川にすむ身なりとも

新古今集・雑歌
住み馴れしわがふるさとはこの頃や浅茅が原に鶉啼くらむ

新古今集・雑歌
定めなき昔がたりを數ふればわが身もかずに入りぬべきかな

新古今集・雑歌
くりかへしわが身のとがを求むれば君もなき世にめぐるなりけり

新古今集・雑歌
あはれとてはぐくみたてしいにしへは世をそむけとも思はざりけむ

新古今集・雑歌
思ひ出でてもしもたづぬる人もあらばありとないひそ定めなき世に

新古今集・雑歌
數ならぬ身をなにゆゑに恨みけむとてもかくても過ぐしける世を

新勅撰集・雑歌
かげばかり おもひはてにし よのなかに なにゆゑとまる こころなるらん

続後撰集・羈旅
命あらば またもあひみむ たのめずと 何かうらむる さだめなき世に

続後撰集・雑歌大峰にて
いりしより 雪さへふかき 山路かな 跡たづぬべき 人もなき身に